
さりげなく効いているダブ処理
――先ほどはCDを聴きましたが、和田さんがLPも所有されているので、LPでも聴いてみましょうか。
和田「そうですね。アナログだからといって音が殊更ソフトになったり優しくなったりするわけではないんですけど、やっぱり質感がいいんです」
――ちなみに『Endlessness』は45分ほどの作品ですが、レコードはわざわざ2枚組になっていて、2枚目の片面はエッチング仕様です。では、LPをかけてみましょう。
柳樂「(聴き終えて)CDと印象が違いますね。こっちの方が厚みのある音で、ドラムがいい感じに浮き出て聞こえてきました」
和田「やっぱり、僕はこのドラマーのセンスが大好きです。石若駿のように音楽全体の動きを感じながら叩いていますよね」
――ナシェット・ワキリのプレイと比べると、1曲目のモーガンはちょっと物足りなく感じます(笑)。
柳樂「そうですね。ナシェット・ワキリのドラムの方がこのアルバムの音って感じがする」
――アナログで聴くとベースやバスドラムが太い音でぐっと迫ってくる感じがしますね。
和田「ボトムまでしっかりと感じられますよね」
柳樂「管楽器の音も温かい感じがしますね。細かいところまで聴けるのはCDだけど。あと改めて気づいたけど、アンビエント系の音楽ってエコーやリバーブが効いていて残響をかなり残す作品が多いですが、このアルバムはそこがドライですよね。でも、ここぞって時にダブっぽくかなり大胆に処理している。サックスにダブっぽいディレイがたまにかかると、ものすごく効果的で気持ちいい。そこはイギリスの音楽って感じがしますね。
それとシンセの音がずっと鳴っているから、生演奏の残響がなくなっても楽器が鳴っているように感じるというか、リバーブがずっとかかっているように錯覚しちゃうのが面白い」
――ナラが録音しているパートが多いですし、ミックスを彼女自身がやっているからこそのこの仕上がりなのでしょうね。
柳樂「全部自分でやらなきゃここまでできないですよね。やりたいこと、作りたい音楽が明確にあるから他人に触らせていなくて、他人に任せたらこうはならない。不思議な音楽ですよ」

アフロカリビアン系のミクスチャー感とヨーロッパ的エレガンス
和田「ところで僕はここ1、2年、アフロカリビアン系の音楽が好きで熱心に聴いているんです。カリブ系やアフリカ系移民たちがアメリカやヨーロッパで出会って花開いたような音楽ですね。
例えば、去年びっくりしたのはセシル・マクロリン・サルヴァント。彼女はハイチ出身の父親とフランス出身の母親の子供で、シネフロの場合は西インド諸島マルティニーク出身の父親とベルギー人の母親ですよね。そういうミクスチャーのサウンドがちょっと似ているんです。
マルティニークというと1980年代にマラヴォワというストリングスグループがいて、ほんわかしたムードのエレガントな音楽をやっていたんですよね。そんなことを思い出しました」
柳樂「アラン・ジャン・マリーのビギンジャズとか、ああいうフランス語圏カリビアン的なエレガントさみたいなものなんですかね。トリニダード系にしてもジャマイカンにしてもイギリスの音楽はもっとリズム重視ですから、ナラのセンスとは違いますよね」
――ナラがUK生まれじゃないことは重要そうですね。
柳樂「別の部分ではイギリスっぽさも感じますけどね。例えばDJ的な音の抜き差しや質感の変化、音をいきなりパッと広げたり徐々に狭めたり、伸び縮みさせるような作り込みは、高い解像度の音で聴いたらよくわかりました。奥行きと立体感が考え抜かれたクラブミュージックのプロデューサー的な作品で、IDMやエレクトロニカ、ダブステップ的な繊細さと内省、インテリっぽさがあるから、ワープが好きそうな音ではある」