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〈全員知り合い〉なロンドンジャズシーンの狭さ

和田「シネフロと日本人ではルーツが全然違いますけど、日本人はこの音の世界の繊細さや優しさにきっと惹かれると思うんです。一度ハマったら抜け出せないと思いますね」

柳樂「たしかにわびさび感があるし、日本人が好きそうな音楽ではありますね。ストリングスをガッツリ使いつつも奥の方で控えめに鳴らしていて、ゴージャスさや大仰な感じはあまりなく、テクスチャーを追加しただけって感じのささやかな使い方ですし」

和田「全体にコンパクトな感じですね」

柳樂「このパーソナルな感じも、枯山水や茶室の窓から見える外の景色みたいなスケール感ですね。アフロフューチャリズム的な宇宙の広大さじゃない。色んな人が参加しているけどコミュニティの音楽にもならず、あくまでも〈ナラ・シネフロの音楽〉って感じ。イギリスのジャズはコミュニティの反映になることが多いので、ナラのパーソナルな感覚は特別で浮いていますね」

和田「柳樂さんに会ったら教えてもらおうと思っていたんだけど、シネフロはシャバカなどを中心にしたロンドンジャズシーンに自ら飛び込んでいったんですか? それとも彼女の周りにヌバイア・ガルシアみたいな人たちが少しずつ集まってきたのでしょうか?」

柳樂「最初のアルバムを作っていた時にヌバイアたちと知り合ったと言っていました。ロンドンのミュージシャンに話を聞くと、よく言われるのが〈ロンドンと東京を同じだと思うな〉ってことなんですね。東京には丸の内や銀座があり、新宿や渋谷や池袋があり、吉祥寺みたいな街もあってすごく巨大なんだけど、ロンドンはその中の街一個分ぐらいの規模なんだと。なので、全員が知り合いの知り合いのような感じなんです。そういう狭い距離感と世代の近さがあるので、新しいジャズをやろうとしたら、とりあえずヌバイアたちと繋がるし、彼らをすぐに集められる、というのはあるかもしれないですね」

和田「そうなんですね」

柳樂「イースト・ロンドンにトータル・リフレッシュメント・センターというたまり場みたいなスタジオがあって、そこはマカヤ・マクレイヴンがセッションを録音したり、インターナショナル・アンセムというシカゴのレーベルと繋がりがあったりするんですけど、そこにUKジャズの面々がよく集まっているそうです。そのくらい小さいコミュニティなんですよね」

 

札幌出身の演奏家がずば抜けている理由

――ところで今回の『Endlessness』と前作『Space 1.8』の違いは感じましたか?

柳樂「前作はセッションっぽさやスピリチュアルジャズっぽさがもっとありましたね。みんな、いつも通りの自分の演奏をしていました。でも、今作はナラが求めるものを的確に演奏をしていると思います。あと、イギリスの若いプレイヤーが上手になったのは大きいと思うんですよね。

ナラやこのアルバムに参加しているプレイヤーって、ちょうど石若たちと同世代なんです。石若や馬場(智章)が10代の頃にバークリー(音楽大学)のサマーキャンプへ行って、ヌバイアとかと一緒に写っている写真があるんですよ」

――えっ、そうなんですか!?

柳樂「みんな、あまり覚えてないらしいけど(笑)。日本では石若たちがシーンを引っ張っていますけど、同じようにイギリスではこの数年でヌバイアたちの世代がイギリスを象徴する存在になっていますよね。イギリスのミュージシャンはこの数年で経験を重ねて、すごく上手くなったんですよ」

和田「僕、石若が中学生だった頃に札幌で出会っているんだよね。すすきのでジャズバーをやっていた頃、札幌芸術の森から夏フェスの企画を頼まれて、10数人編成の中高校生のラージアンサンブルを作ってもらったんです。その時、詰め襟の制服を着た中学生だった石若がいて。当時の彼は感覚的に叩いていたけれども、すごかったんです。

その後、札幌市がお金を出して、石若たちは各地の中高生と交流して、アメリカでも勉強したそうですね」

柳樂「セイコーの〈Summer Jazz Camp〉とかですよね?」

和田「そうそう。札幌出身の子たちが今、大活躍していると話に聞いています」

柳樂「同じく札幌出身の寺久保エレナが今、ニューヨークの一流ビッグバンドに入ったり、すごく活躍しています。彼女や馬場智章が目立っていますが、今ではさらに下の世代も活躍し始めているので、札幌のコミュニティはずば抜けて成功していると言えますね」

和田「最近知った中学生ぐらいの女の子のアルトサックス奏者は、どっからどう聴いてもチャーリー・パーカーなんです。子供の頃の阿部薫みたいでしたよ。日本のジャズの将来もそんなに悲観することはないなと思いました」

柳樂「その最新型が今バークリーに行っている佐々木梨子というアルトサックス奏者です。イマニュエル・ウィルキンスみたいな女子高生のサックス奏者がいると話題になって、実際、彼女は毎日イマニュエルやアンブローズ・アキンムシーレを聴きながら通学していたらしくて(笑)。彼女も札幌のビッグバンド出身ですね」