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ポストパンクやヒップホップに先駆けた作風

以上のような聴き味や、形式よりも在り方こそが個性になっているようなツェッペリンの音楽は、既存の音楽語彙のサンプリングから新たなものが生まれる※3様子をよく示している点において、ポストパンクやヒップホップにも通ずるところが多いと思われる。例えば冒頭の“Custard Pie”の歌詞は、スリーピー・ジョン・エスティスやブッカ・ホワイト、ブラインド・ボーイ・フラーといった戦前ブルースのフレーズを引用し組み合わせたものになっている。また、“Trampled Under Foot”はファンク寄りの曲調やクラビネットの特徴的な音色もあってか、スティーヴィー・ワンダーの“Superstition”(ジェフ・ベックに書かれた曲ということもあってツェッペリンとも人脈的に近いところにある)と比較されることが多い。しかし、いずれの曲もグルーヴの質感や独特のニュアンス表現はツェッペリン以外の何ものでもなく、間違いなくここでしか聴けない音楽になっている。

ジョン・ライドン(セックス・ピストルズ/パブリック・イメージ・リミテッド)がツェッペリンの巨大バンドとしての存在感は批判しつつ音楽は高く評価し、『Physical Graffiti』を最高傑作として絶賛しているのは、そうした在り方に共鳴しているからでもあるのでは。そうしたことも含め、どれだけ繰り返し聴いても飽きない、聴くほどに味が増していくアルバムなのだ。

というふうに、レッド・ツェッペリンの音楽、特に『Houses Of The Holy』以降の見過ごされがちな作品群には、ハードロック(または〈有害な男性性〉の象徴たる〈コックロック〉)の代表格みたいなイメージから離れることで初めて見えてくる魅力も多い。そしてそれは、〈全てのポップミュージックが少なからずプログレッシブである〉ような現状に親しみ、アンビエントのようなロングスパンで揺蕩う音楽にも慣れた今の人々と相性がいいものだと思われる。この50周年を機にリスナーを増やし、新たな角度から語られるようになることを願う次第だ。

※1 なお、ハードロック/ヘヴィメタルの世界的巨大データベースであるMetal Archivesにレッド・ツェッペリンは登録されていない(厳格な登録要件にそぐわないとして排除されている)。この措置自体がメタルファンの間でも賛否分かれるものでもあるのだが、様式美(といってもサブジャンルの数だけあるので、メタルに馴染みのない人が考えるよりも〈様式美的なメタル〉は遥かに多様だとも言える)に留まらないバンドとしてのツェッペリン、ということはこういうところでもよく示されているのではないだろうか。
※2 ちなみに、“In The Light”の迷宮的な展開や居心地は、昨年オーペスが発表した『The Last Will And Testament』の不思議な聴き味と共通する部分が多いように思われる。同様のニュアンスを受け継いでいるバンドはメタル系に限らず稀で、『Physical Graffiti』のタイムレスな個性やオーパーツ的な存在感をこういうところで実感させられたりもする。
※3 〈既存の音楽語彙のサンプリングから新たなものが生まれる〉というよりも〈独特の在り方が受肉/具現化するための手近な手法として既存の音楽語彙のサンプリングが用いられている〉というほうが適切な気もする。他のやり方でもオリジナルな音楽を作れる人がサンプリングを用いることにより、アイデアを素早く形にできるようになったり、サンプリング対象となった要素が聴き手との共通語彙となりポップな印象を増すということもあるだろう。ツェッペリンのような規格外のフィジカルとビジョンを持ったバンドがこれほどの人気を得られたのは、〈パクり〉により同時代性をも獲得できたのも大きかったのではないかと思う。