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遊び心満載な歌世界、吉田拓郎に宛てたメッセージソング、切ないヒット曲……

オープニングのドラムとあまりにも対照的なパーカッションから始まる“真昼の情景(このせまい野原いっぱい)”、幻想的な音像の中で和洋折衷な桑田節が光る“古戦場で濡れん坊は昭和のHero”、ストーリー展開もユニークなデジタルポップ“死体置場でロマンスを”、非モテ男の悲哀やエロティシズムを綴る“欲しくて欲しくてたまらない”、“顔”、“Brown Cherry”といった桑田ならではの遊び心満載な世界観も健在だ。“吉田拓郎の唄”はタイトルを見たときにいったいどういう曲なんだ?と思ったものの、本人に宛てた直球のメッセージでとてつもなく熱量が高い。“怪物君の空”、“悲しみはメリーゴーランド”はそれぞれ曲調は異なるものの、共に戦争を想起させる歌詞が耳に残る。2枚組の大作にして、壮大な終わり方ではなく“悲しみはメリーゴーランド”が残すなんともいえない余韻もまた、『KAMAKURA』を名盤たらしめている要因の1つとして挙げておきたい。

緩やかなミディアムバラード“愛する女性(ひと)とのすれ違い”、〈恋の行方はわからない/不思議なものね〉と歌う多幸感溢れる“Happy Birthday”、青春を回顧するフォークソング“夕陽に別れを告げて”といった、奇を衒うことない曲たちもじんわりと胸に沁みる。“メロディ(Melody)”“Bye Bye My Love(U are the one)”は揃って切ないラブソングで、数あるサザンの名曲の中でも際立った傑作だ。この2つのヒットソングが、バラエティに富んだ曲が並ぶアルバムをビシッと引き締めている。

 

ロックバンドの域を超えた豪華で先鋭的な音

桑田以外のメンバーのボーカル曲では、表題作ともいえる“鎌倉物語”は今や原由子ボーカルのスタンダードナンバーとなった感があるし、関口和之が歌うトロピカルソング“最後の日射病”もらしさ全開だ。この2曲、さらに“Please!”、“星空のビリー・ホリデイ”、“Long-haired Lady”の3曲には、デビュー当時のバンドアンサンブルがアップデートされた雰囲気も感じることができる。初期サザンの特色、即ちブルースやR&B、ジャズといったルーツミュージックが下地にあるバンドサウンドだ。ただやはり、初期のアルバムと『KAMAKURA』を聴き比べてみると、驚くほどサウンドの変化が著しく、特にギターを前面に出したバンドアレンジは影を潜めている。

『KAMAKURA』では、管楽器、弦など、膨大な人数のミュージシャンが参加しており、豪華で先鋭的な音作りが実現している。6人(当時)が持てる技術とアイディアを集結させると共に、その世界観を結実させるためには、もはやサザンは6人だけのロックバンドではなくなった、と言っても過言ではない。

 

初期の音楽性に幕を下ろし、次のステップへ向かった記念碑

『KAMAKURA』のリリース、ツアー以降、原由子の産休を機にメンバーはしばらくソロ活動に入るわけだが、桑田と松田弘が組んだKUWATA BANDのアルバムとライブが思いっきりハードなギターサウンドを核にした作品になったことや、再始動後初のアルバム『Southern All Stars』(1990年)が王道ロックギターリフによる“フリフリ ’65”で始まったのも、そうしたバンドの変遷と無関係ではない気がする。

『KAMAKURA』は、バンドの集大成として1つのジャンルを確立したアルバムであり、デビューからの音楽性にいったん幕を下ろして、次なるステップへと向かうために刻んだ記念碑的な作品だったのではないだろうか。90年代以降、〈国民的バンド〉へと飛躍して行ったサザンを思いながら聴くと、そう思えるのだ。