アークティック・モンキーズを誰も超えられなかった
普通これほどのセンセーションを巻き起こしたバンドであれば、後続のフォロワーが無数に湧いてもおかしくない。だが実際は、ポスト・アークティックと呼べるようなバンドは、ほとんど思い当たらない。筆者の考えでは、やはりアークティックは2000年代インディロック最後の大きな打ち上げ花火であり、インディをメインストリームへと押し上げた存在だ。あまりにも完璧な集大成で、あらゆる面において完成度が高過ぎたがゆえに、誰もそのあとを追いかけることが出来なかったという印象がある。
もっとも、音楽的に近いかどうかを別にすれば、『Whatever~』の爆発的なブレイク後、イギリスではそれまで以上に大量のインディバンドが登場した。ヴュー、クラクソンズ、フラテリス、クークス、エネミー、メトロズ――2000年代前半のインディ再興期との大きな違いは、メジャーからも〈インディバンド〉が数多くデビューした点だろう。『Whatever~』の成功によって、大手レーベルからもインディは金になると判断されたのだ。ある意味、これはポスト・アークティック現象だと言える。
『Whatever~』の出現により、イギリスではインディバブルがさらに過熱し、そして2000年代後半にそれが弾けた(BBCのコラムでは、ギター音楽の売上が大きく落ちた2009年は〈インディが死んだ年〉だと評されている)。2010年代半ばにはサウス・ロンドン勢による草の根的なインディ復興運動が始まったが、その前提には2000年代末のインディバブル崩壊がある。『Whatever~』は結果的に、その後のUKインディの命運を決定づけた作品だ。
近年はラスト・ディナー・パーティやイングリッシュ・ティーチャーなど、ポップでメジャー感のある若いギターバンドが台頭してきた。インディが再びメインストリームに近づきつつあるという状況や空気感は、『Whatever~』登場時にも通じるものがある。しかし彼らの商業的・文化的インパクトは、まだ『Whatever~』には遠く及ばない。
一方で、2010年代以降の英国発の大きな成功例としてThe 1975がいる。だがマット・ヒーリーは、自分たちは〈アークティックのようなトラディショナルなバンドとは違う〉として、The 1975はギターバンドという形式を用いたモダンなポップアクトだと再三強調してきた。彼の認識は実際のキャリアの歩みとも一致しており、〈トラディショナル〉な英国インディの文脈とは分けて考えるのが妥当だろう。
こうした状況を踏まえると、現時点までに『Whatever~』を超える商業的・批評的成功を収めた英国インディロックのアルバムとして、すぐに思い当たるのは2013年にアークティックがリリースした5作目『AM』くらいである。あまりにも破格の存在であるがゆえに、結局のところ、アークティックを超えられるのはアークティックしかいなかった。そしてその事実は、リリースから20年経った今も揺るぎない。