ミシシッピ州ジャクソンを拠点にドロシー・ムーアやキング・フロイドらと不朽の名曲を送り出してきたマラコ。時代に応じてメニューを変えながらも常に厚い信頼を集める〈ラスト・ソウル・カンパニー〉の名作を味わおう!

 かのピーター・ギュラルニックをして〈ラスト・ソウル・カンパニー〉と言わしめたマラコ。その言葉を掲げてミシシッピ州ジャクソンを拠点に現在も活動している彼らは、スタックス以降のサザン・ソウルやブルースの伝統をモダンに継承する最後の砦として、世界中のソウル・ファンから愛されている名門レーベルである。とはいえ、モータウンやハイのようなクロスオーヴァーな知名度がないぶん、その実体がさほど広まってはいないのも事実だろう。本誌では30タイトル以上が復刻された2014年にも大きくフィーチャーしているが、今回はそれ以降にリイシューされた作品と、世界初CD化の4作品を含めてこの5月に届く新規タイトルを中心に、改めてマラコの持つ魅力を探っていきたい。

 もともとミッチェル・マルーフとトミー・コーチ、創業者ふたりの姓(Malouf And Couch)を繋いで命名されたマラコは、62年にブッキング・エージェンシーとして創業されている。67年には本社にレコーディング・スタジオを開設。自前のスタジオを構えてハウス・ミュージシャンを揃えたプロダクションとしての在り方は、南部の先人スタックスやフェイムを手本にしたものだったという。68〜70年にかけて細々とキャピトル配給でシングルを出していた彼らだが、ニューオーリンズからワーデル・ケゼルグを専属プロデューサーに迎えたことが転機となった。ファッツ・ドミノらを手掛けてきた実績のあるワーデルはマラコ・スタジオでキング・フロイドの“Groove Me”(70年)を録音し、これがソウル・チャート首位(全米6位)を記録してマラコ最初の全国ヒットとなる。さらに、同じセッションで録られたジーン・ナイトの“Mr. Big Stuff”(71年)はスタックスからリリースされてそれ以上のクロスオーヴァー(ソウル・チャート1位/全米2位)を記録。そうした成果を受けてポール・サイモンらが録音で使用するなどマラコのスタジオが需要を増していく。一方でレーベルとしてはヒットに恵まれず破産寸前まで追い込まれるも、73年に録音したまま放置されていたドロシー・ムーアの“Misty Blue”(75年)を自主で出したところ、最終的には全米3位(全英、全豪でもTOP 10入り)まで上昇する起死回生のヒットを記録。そこからはレーベルとしてのコンスタントなリリース体制へと移行していくのだった。

 70年代後半から80年代前半にかけてのマラコには緩やかな拡大志向を見せ、マイアミのTKと配給契約を結んだり、先達のスタックスが倒産したことを受けてアーティストから裏方まで優れた人材が流入してきたこともあって、送り出すサウンドやスタイルの幅も大きく広がった。今回のカタログにもラインナップされている〈Free Soul〉や〈Light Mellow〉文脈でのコンピを見ても、流行への敏感さやモダンな感覚から〈マラコ・サウンド〉と一括りにできない多彩な楽曲が生まれていったのだ。

 とはいえ、80年代に入ってからのマラコは全国区での成功を狙ってメインストリームに目配せするのではなく、サザン・ソウル、ゴスペル、ブルースといった本道を中心に、いわゆる〈サザン・ソウルの良心〉的なイメージを強める方向にシフトしていった。82年にはZZ・ヒルの『Down Home』が異例のロング・ヒットに輝き、モダンなブルース表現の確立にも成功。ZZの急逝した84年には新たな看板にジョニー・テイラーを迎え、以降はラティモア、ボビー・ブランド、シャーリー・ブラウン、デニス・ラサール、タイロン・デイヴィスらとも契約し、一時代を築いた大物たちの再飛躍のホームとして機能していくようにもなった。結果的にその安定路線が現在に至るまでの〈ラスト・ソウル・カンパニー〉像をブレのない姿へ育てたのは確かだが、ブランドへの信頼とその根底に潜むモダンな意識という両輪が、50年以上もマラコを動かし続けてきたのだ。

 そしてジョニー・テイラーがレーベル最大のヒット作とされる『Good Love!』(96年)を生んだ90年代も、それ以降も、現在に至るまでマラコはマイペースに活動を続けている。2011年にはトルネードで社屋とスタジオを失う不幸に見舞われるも、マスターを保管している倉庫は無事だったそうだ(現在はオフィスも同じ場所に再建)。〈ラスト・ソウル・カンパニー〉として築かれた揺るぎないブランドは、この先も良品を送り出し続けてくれることだろう。 *出嶌孝次

マラコのレア曲や未発表曲を集めたコンピ『Malaco Deep Soul Collection -Rare & Unreleased Singles』(Solid)

マラコ制作/録音を含む作品。
左から、ミシシッピ・フレッド・マクドウェルの69年作『I Do Not Play No Rock ’N’ Roll』(Capitol)、ジーン・ナイトの71年作『Mr. Big Stuff』(Stax)、ポール・サイモンの73年作『There Goes Rhymin’ Simon』(Columbia)

マラコ音源の日本独自編集コンピ。
左から、『Light Mellow Malaco』 『Free Soul. The Treasure Of Malaco』(共にSolid)

 

ルーツ・ミュージックを追求する近年のマラコ

 2000年代にはウィリー・クレイトンやマーヴィン・シーズといったローカルの巨人たちが集まり、一時はジャーメイン・デュプリ率いるソー・ソー・デフ作品を配給したり、ケリー・プライスや112のQパーカーらと契約していた時期もあるマラコ。この10年ほどを振り返ってみると、特にゴスペル・アーティストが多く集まっていて、メアリー・メアリーのティナ・キャンベルやビービー・ワイナンスのようなコンテンポラリー勢もいれば、ミシシッピ・マス・クワイアやカントン・スピリチュアルズのようなミシシッピ州内の老舗グループ、さらに伝記ドラマ「クラーク・シスターズ ~First Ladies Of Gospel~」(2020年)でトゥインキー役を射止めたクリスティーナ・ベル、ゴスペル/ブルース系ギタリストのMrシップまでアーティストのスタイルもさまざま。昨年はブルース・ギタリストのマイク・ファリスもアルバムを出していて、よりルーツ・ミュージックの根源を辿るような顔ぶれが安定して集っているようだ。 *出嶌孝次

左から、ティナ・キャンベルの2017年作『It’s Still Personal』(Gee Tree Creative/Malaco)、ビービー・ワイナンスの2019年作『Need You』(Regimen/Malaco)、カントン・スピリチュアルズの2021年作『Hallelujah Anyhow』、クリスティーナ・ベルの2021年作『Still Faithful』、 Mrシップの2024年作『Old Time Church』、ミシシッピ・マス・クワイアの2024年作『We Still Believe』(すべてMalaco)、マイク・ファリスの2025年作『The Sound Of Muscle Shoals』(Fame/Malaco)

 

ESSENTIALS
いくらでもあるマラコの秘宝

DOROTHY MOORE 『Misty Blue』 Malaco/Solid(1976)

ジャクソン生まれでマラコの看板アーティストとなったドロシー・ムーア。後にモニカらも取り上げる名バラードの表題曲が大ヒットしたのを受けて編まれたのがこのファースト・アルバムだ。この時期にスタックスから移籍してきていたエディ・フロイド作のナンバーもウイリー・ネルソンのカヴァーも懐の深い歌唱で包む、アーシーでメロウなサザン情緒の麗しさに引き込まれる。 *出嶌

 

KING FLOYD 『Body English』 Chimneyville/Solid(1977)

“Groove Me”を書いて歌ったマラコ躍進の立役者たるニューオーリンズ出身シンガーの、チムニーヴィルから放った2枚目のアルバム(通算5作目)。原曲よりファンキーなスタイルでセルフ・カヴァーした“Baby Let Me Kiss You”をはじめ、軽妙な表題曲や陽性の野太いグルーヴで躍動する“Stop, Look And Listen”などディスコ時代に呼応したソウルフルなアップの快活さが際立つ。嬉しい世界初CD化だ。 *出嶌

 

DOROTHY MOORE 『Once Moore With Feeling』 Malaco/Solid(1978)

サム・ディーズのペンによる“Special Occasion”でエレガントに幕を開ける3作目。前後の時期と比べてもライトでメロウな風情がまろやかな歌唱としなやかにマッチした快い仕上がりの傑作で、マラコ・リズム・セクションのタイトなバッキングも素晴らしい。90年代にスノウボーイが取り上げた“Girl Overboard”の流麗なフィーリングも後半に固められたディープな味わいも格別だ。 *出嶌

 

FERN KINNEY 『Groove Me』 Malaco/Solid(1979)

ドロシー・ムーアと縁深いジャクソン出身のシンガーがディスコ・マナーで出したファースト。“Groove Me”と“Baby Let Me Kiss You”はキング・フロイド名曲のカヴァーで、カリビアンな要素も交えたエレクトロニックな音色は80年代を先取りした印象だ。アニタ・ワードに通じるコケティッシュなキャンディ・ヴォイスはシルヴィア“Pillow Talk”のカヴァーでも大ハマり。 *林

 

JAMES BRADLEY 『James Bradley』 Malaco/Solid(1979)

ミシガン出身のシンガーによる唯一のアルバム。フレデリック・ナイトの全面プロデュース/アレンジで、TKディスコから12インチも出された“I’m In Too Deep”を含む前半は華美なディスコ・ファンクを力強いハイ・テナーで歌い倒す。一方で南部風情のバラードや“I Can’t Get Enough Of Your Love”のような都会感覚のメロウ・グルーヴではディープな体質が露わになる。 *林

 

NATURAL HIGH 『Natural High 1』 Chimneyville/Solid(1979)

ミシシッピ出身のバンドが残した唯一のアルバム。スライを下敷きにして賑やかに盛り上げる冒頭の“Dance To The Funk”を筆頭に、爽快なモダン・ソウルの“You Make Me So Very Happy”や昼下がり系のバラード“Trust In Me”など魅力的な歌唱&ハーモニーと高い演奏力が結びついた佳曲揃い。流石にEW&Fすぎる“Don’t Be Lonely”まで完成度は高く、隅々まで楽しめる。 *出嶌

 

SHO-NUFF 『Tonite』 Malaco/Solid(1980)

ジャクソン州立大学で結成されたバンドがスタックスからマラコに移籍して発表したセカンド・アルバム。シンセを駆使し、クラップやベルなどの快音を響かせたメロディアスでポップなディスコ・ファンクは同時期のクール&ザ・ギャングにも近い。一方、“Let’s Love”やファルセットが映えるスウィートな“What Am I Gonna Do”といったヴォーカル・グループ風情のスロウも上々だ。 *林

 

DOROTHY MOORE 『Talk To Me』 Malaco/Solid(2020)

通算5作目となる第1期マラコでの最終作。制作を手掛けたカーソン・ウイットセット作の軽快なミディアムのほか、ジョージ・ハリソン“Something”やチップ・テイラー作“Angel Of The Morning”などのカヴァーも含み、カントリー寄りのサザン・ソウルをグラディス・ナイトに通じる声でディープかつ情熱的に歌う。名曲“It’s All In The Game”のメロウなカヴァーもいい。 *林

 

FREEDOM (SOUL) 『Changes Of Times』 Malaco/Solid(1981)

80sマラコの裏方としても活躍したラリー・アディソン含むジャクソン出身のファンク・バンドによる3作目。モダンで開放的なパーティー・ファンク感は変わらずで、79年の人気曲“Get Up And Dance”を特徴づけたカズーが鳴る“At The Party”などバーケイズ風のディスコ・ブギーがあれば、スウィッチを思わせる“I Give You Love”や“You”といったメロウ・ミディアムも登場する。今回が初CD化。 *林

 

FERN KINNEY 『Sweet Music』 Malaco/Solid(1982)

初CD化となるマラコでの3作目。同社の精鋭が集った制作環境はほぼ同じながら、ディスコ曲の目立った前2作に対し、今作はトゥーサン・マッコール名曲のカヴァーも含めてドロシー・ムーア路線のサザン・バラードに比重が置かれた。コケティッシュな歌声が映えるミディアム〜アップもエレガントで、ケニー・ロジャース“Sweet Music Man”のシャッフル調カヴァーもいい湯加減で聴かせる。 *林

 

G.C. CAMERON 『Give Me Your Love』 Malaco/Solid(1983)

スピナーズ時代も含めてモータウンで10年近くを過ごしたジャクソン出身の名シンガーが地元のマラコから出した一枚。モダンな表題曲に代表される80年代初期らしいサザン・ソウルを歌いつつ、70年代ニュー・ソウル路線も聴かせる充実の内容だ。マーヴィン・ゲイやポール・ケリーの名曲カヴァーに加え、自身の“So Hard To Say Goodbye To Yesterday”も再録音で披露。 *林

 

JOHNNIE TAYLOR 『Wall To Wall』 Malaco/Solid(1985)

終の住処となったマラコでの2作目。マイケル・ジャクソン“Billie Jean”風のベースラインで知られる表題曲をはじめ、渋味や苦味を内包した濃厚な歌唱の持ち味を都会的なサウンドと組み合わせた作りの巧さが光っていて、ドラマティックなスロウ“Can I Love You”やコンテンポラリーなバラード“Just Because”、ノスタルジックなソウルやブルース系まで聴き応え抜群な佳作だ。 *出嶌

 

FREEDOM (SOUL) 『Are You Available?』 Malaco/Solid(1984)

こちらも世界初CD化となる4作目。前作から加入した3名に新顔3名を迎えた編成はもはや別バンド状態で、外部の人がリード歌唱を担う曲もあって混乱するが、単純にベンジャミン・ライトが指揮したディスコ・ファンク作品と捉えれば最高だ。シャラマー風の軽快な“All For You”やメロウな“Rainbow”、ショー・ナフのフレディ・ヤングが歌うプリンス“Do It All Night”のカヴァーなどどこを切っても楽しめる。 *出嶌

 

DENISE LASALLE 『Rain & Fire』 Malaco/Solid(1986)

マラコでの4作目。フィリップ・ミッチェル作の重厚なブルーズン・ソウルに始まり、小気味よいシャッフルにサザン・バラード、シャーリー&カンパニーのディスコ名曲カヴァーなどを語りも交えつつ余裕の歌唱で披露する姿には、マラコの看板シンガーとしての矜持が滲む。前年ヒット“My Tu-Tu”のスピンオフ的なエレクトロ・ヒップホップ曲では本格的なラップを披露。 *林

 

BOBBI HUMPHREY 『City Beat』 Malaco/Solid(1988)

70年代にマイゼル・ブラザーズらと組んでブルーノートにリーダー作を残した女流フルート奏者が、空白期を経てマラコから出したアルバム。ブラコン系のアップでクールに歌う表題曲などが当時はプッシュされたのだろうが、いま聴くとマーヴィン・ゲイのカヴァー“Come Get To This”や男女デュエットの“Days Of You And Me”などのマイルドなスムース・ジャズに自然な甘味が感じられる。 *出嶌

 

DENISE LASALLE 『Hittin Where It Hurts』 Malaco/Solid(1988)

マラコでの6作目はロジャー・ホウキンズが手掛けたブルース曲を含み、マッスルショールズでも録音。弾むようなファンキー・チューンや自作のエレガントなバラードなど、80年代後期らしい重厚な音も纏いながらサザン・フィーリングを打ち出した快作で、歌にも力がこもる。サム・クック“Bring It On Home To Me”をゴーゴー〜カリビアン風にした大胆なカヴァーも収録。 *林

 

BOBBY “BLUE” BLAND 『Midnight Run』 Malaco/Solid(1989)

マラコ移籍以降のモダン・ソウル・ブルース道を堅持した80年代の最終作。メンフィスとマッスルショールズの名手を従え、前年にBB・キング版が出たフレデリック・ナイト作“Take Off Your Shoes”のほか、ビル・ウィザーズやメル&ティムの名曲カヴァーなどを有名な〈痰切りシャウト〉も交えつつまろやかな渋声で歌う。トミー・テイト作でレゲエ調の表題曲もモダンだ。 *林

 

DOROTHY MOORE 『Feel The Love』 Malaco/Solid(1990)

A&M配給のゴスペル作やヴォルトでの2作を経て、約10年ぶりにマラコへ復帰。制作はトミー・コーチ、演奏もマラコ〜マッスル・ショールズ勢で、マラコ第1期作品とシームレスに繋がるサザン・ソウル盤だ。南部ゆかりのソングライター陣による曲やオージェイズ“Your Body’s Here With Me”のカヴァーまで、エレガントなバラードを中心に落ち着いた歌を聴かせる。 *林