アルバムが機能しない時代に
西山「ジャズもメタルも、ファンが高齢化して、媒体もいつまでも一緒で……と嘆いている人が多い印象なんよね」
鈴木「どっちも終わりだよ(笑)! 昔のリスナーは、アルバム1枚を頑張って聴いて、音だけを全力で受け止めようとしていて、ミュージシャンがどこの国の人なのか、性別、年齢が何なのかはどうでもよくて、音楽だけで満たされてた。それはメタルもジャズも一緒。
でも、今はレコード1枚をじっくり楽しむってことはないし、ショート動画の時代になっちゃった。それから、見た目。音楽以外の情報、見た目やセンスまで映像として先に入ってくるからね。ジャズもメタルもエンタメとしてアルバムが機能しないから、アートとして残っていくしかないよ。
若いリスナーだけじゃなくて、なんならうちの両親のような70過ぎの人だって、音楽を映像ごと見てるからね。レコードに静かに針を落として、目を瞑って音楽だけに集中する人なんて、ほとんどいなくなっちゃった。〈音だけを聴け〉って強いるのも無理じゃん?
だからライブハウスに来てくれる人なんてよっぽど音楽好きの人で、1日の3、4時間を安くないお金を払って足を運んでくれるって凄いことだよね」
西山「ジャズのライブなんて、何が起こるか、何の曲を演奏するかもわからないし」
鈴木「何が起こるかわからないものに期待して来てくれる人は、よほどの人だよ。でも、最後に何が残るかじゃない?」
馬場「ところで、伊藤政則はまだまだ現役だよね」
西山「私、今度出す新作(『Layer』)にコメントを頂いたのよ」

鈴木「えっ、アルバムの中身はどんな音なの?」
西山「ジャズ。〈これまでのメタル研究を自分のピアノトリオに反映しようと取り組んでいて、その成果物として聴いてほしいんです〉って連絡して。〈じゃあ、やりましょう!〉って言って下さって、死ぬほど嬉しかった」
ヤスナリオ「メタラーの夢だよね」
西山「そう!! だって、ナフサ不足とかも影響して制作費もいつもの倍になってて、〈これがマジで最後かも〉と思ったから、もはや冥土の土産よ。これで成仏できる(笑)」
ショート動画全盛時代のプレイヤーに思うこと
西山「映像発といえば、マッテオ・マンクーゾの新譜(『Route 96』)って聴いた?」
鈴木&馬場「聴いてない」
西山「ここにいる皆、随分早い時期から注目してたでしょ。彼のことを教えてもらった時にネットで映像を見てから凄いなとは思ってたけど、アルバムを聴いたら音楽がコンパクトだったのよ」

マルセロ「それはわかる。アル・ディ・メオラがコメントしてたね、〈音楽はスピードだけじゃないから〉って」
鈴木「あいつが!? どの口が言うか! アル・ディ・メオラはスピード主義でテクニック至上主義だけど、超ロマンチックなんだよね」
マルセロ「ディ・メオラのInstagramを見ていると、超きれいな会場でギターを弾いて、ピザを作る生活をしてるみたい(笑)。
マンクーゾとディ・メオラが“Spain”を演奏している映像があるんだけど、2人の個性が違いすぎるんだよね。でも、やっぱりテクニックで弾くばっかりだと聴いててつまらない。あなたにどんな経験があるのか、あなたの音楽を聴きたいなって思う」
鈴木「俺は70年代のスーパーギタートリオ(アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリン)で、唯一ストーリーテリングをしていたのがディ・メオラだと思ってて。パコもマクラフリンもいきなりドーン!ってスーパープレイをして、いきなり果てるんだよ。あっ、終わった!って(笑)。でもディ・メオラは、自分の番になったら、〈さあ、俺を見ろ!〉って導入から1音だけ伸ばして、〈静かにしろ。よーく聴け、俺の音を!〉ってリスナーを惹きつけてから、最後までちゃんとシームレスに盛り上げていくの。やってることはアホみたいな内容なのに、展開の付け方が素晴らしすぎて、すごく学びがあったな」
馬場「わかる」
マルセロ「そういうことが、マンクーゾとは違う。もちろん彼はまだ若いしこれからだろうけど、一番嫌いなのは〈何人フォロワーがいるの?〉というのが話題になること。それって音楽じゃないじゃん?」
鈴木「マッテオは、フランス人のアントワン・ボイヤーという凄いギタリストと2人で演奏している動画があって、ちゃんとストーリーを作ってたの。やればストーリーテリングもできるんだよ。その長いストーリーテリングを、ショート動画で育ったリスナーが受け入れられるかどうかだね」
マルセロ「私は、彼はまだ緑のフルーツって感じがするね。今、やっぱり商業的にギターヒーローが必要なんだけど、一番大事なところはテクニックじゃないと思う」
馬場「わかる。マッテオがヒーローになりそうな感じはするけど、なんか違う。今までのギターヒーローとは違うんだよね」
マルセロ「社会はどんどんインディビジュアルになっていっている。皆、自分の部屋で楽器を弾いて、自分の部屋で歌ってる。だから、ちょっと時代を戻して、もっとロマンチストでもいいぐらいだよ」
鈴木「例えば、ビル・フリゼール。彼だけじゃなく、あの辺のベテランの人たちは皆そうだけど、誰でも弾けるフレーズを彼が弾くとなんであんなに魅力的なのかって、そこをちゃんと掘ってほしいよね。ビル・フリゼールがふわーって弾くときの音量の上げ方とか、リズムに対してハンマリングしたタイミングがなぜそこだったのかとか、超気になるじゃん。
ギターの技術だけで判断すれば、凄く上手い人はたくさんいる。でも飽きるよ、弾き倒したら。“熊蜂の飛行”をテンポ幾つで弾くか、みたいな世界が以前からあったじゃん。それが弾けたから何なんだって思うよ。
アルバムを作る意味っていうのも問われるよね。1時間聴いて、意味のあるものになっているのかという」
マルセロ「アルバムを聴き始めて、ずっと弾き倒してたら、3曲目には帰りたくなるよね」
西山「ポリフィアのティム・ヘンソンは、どう思う? 私は実際に生でパフォーマンスを見たら、ライブで指板ばっかり見てたのがちょっと残念だった」
マルセロ「レコーディングでは上手だね。30秒とか、インスタの動画で見る分には面白い。でも私たちが聴いたら、少し不自然じゃん。ギタリストの演奏として聴くと、ちょっとオーガニックでできないことがあって、キーボードと同じことをしているよね」
鈴木「ジャズだったらまだいいけど、メタルでずっと指板を見てるギタリストは嫌だね。〈おらーっ! 殺すぞ〜! おめえか俺が死ぬぞ!〉みたいな演奏じゃないと(笑)。ダイムバッグ・ダレルなんてあんな上手くて緻密なのに、ウォー!って殺気が凄かったじゃん。もっと演奏を聴きたかったから、死なないで欲しかったな」
馬場「ジェフ・ハンネマンがコブラに噛まれて死んだっていう死に方が、さすが!っていうね」
西山「それ、本当?」
馬場「(スマホで調べる)あれ、肝不全で死んだって書いてある。コブラじゃないの!? 伝説? ええ!! 今までずっと信じてた!! 普通に死んでたんだ※」
鈴木「伝説はあればあるほどいいよね。その人に相応しいストーリーだしさ。そういうのがメタルの魅力じゃん」