すっかり寒さが和らぎ、ポカポカとした陽気が心地良い新学期直前の春休み。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。暇を持て余したメンバーが集まっているようですね。

 

【今月のレポート盤】

FRANKIE LYMON & THE TEENAGERS The Teenagers Featuring Frankie Lymon/Rock ’N’ Roll Hoo Doo(2015)

 

雑色理佳「さっきからサメ先輩が〈話を聞いてくれ!〉とばかりの仏頂面をしていてウザイんですけど、何かありました?」

杉田俊助「マリーアが新会長にユノちゃんを指名したのは知ってる? どうやら、それが気に喰わないらしいヨ、Ha! Ha! Ha!」

鮫洲 哲「笑い事じゃないっすよ! 俺がどれだけ舎弟としてまりあの姐御に尽くしてきたか……。人情ってもんがないんですかね!? 梅屋敷より俺のほうが絶対ロックに詳しいし!」

雑色「驚くほど度量の小さい男ですね~。仕方がないなあ、そんな時はコレでも聴いて元気を出しましょ!」

杉田「Wow、50sのドゥワップ・グループ、フランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズだネ。Tマークで揃えたセーターがエクセレントだヨ!」

雑色「にゃはは! 56年作『The Teenagers Featuring Frankie Lymon』に、58年発表のライモンによるソロ・アルバム『Rock 'N' Roll』をカップリング、さらにボートラまで加えた全30曲入りの2in1ですよ。前者は昨年に日本限定で単独では初となるCD化が実現して話題を呼びましたし、後者は今回が世界初CD化ですって!」

鮫洲「俺がこよなく愛する名画『アメリカン・グラフィティ』でも、代表曲“Why Do Fools Fall In Love”が使われているからな! 梅屋敷はきっと知らねえだろうけど、もちろん俺は余裕でチェックしてたっつーの。デビュー当時のライモンは確か13歳で、他のメンバーも中学生くらいだよな!」

雑色ジャクソン5にも絶大な影響を与えていますからね~、まさに元祖キッズ・グループですよ!」

杉田「“Why Do Fools Fall In Love”はアッパーでダンサブルな名曲だよネ! 最近だとオーヴァートーンズもカヴァーしていたし、ブルーノ・マーズもティーンの頃にライヴで歌っていたみたいだヨ!」

雑色「そのブルーノの路線を継いでドゥワップをモダンに解釈しているメーガン・トレイナーが、3月に日本デビューしたのもタイムリーな話題ですよね! そう考えると、今回のリイシューは見計らったような好タイミングかも!」

鮫洲「ちょっと待てよ、俺らは腐ってもロック史研究会だろうが! ドゥワップをお題に語るんだったら、ロックの文脈で捉えろっつーの。例えばキティ・デイジー&ルイスとかブリリアンティアーズとか、いろいろ出せる名前はあるだろが!?」

杉田「それならバーガー軍団はどうかな? サマー・ツインズとかアクアドールズとかのファニーなハーモニーはモロだよネ! ほかにも、あのレーベルにはドゥワップに影響を受けていそうなグループがわんさかいるヨ!」

鮫洲「そうそう、それっすよ! ドゥワップってソウルの始祖でもありつつ、サウンドはロックンロール寄りのものだろって話」

雑色「実際に『Rock 'N' Roll』は、エルヴィス・プレスリージーン・ピットニージュニア・パーカーなどロックンロール名曲のカヴァーを中心としたアルバムですし、ダン・オーバックハンニ・エル・カティーブなんかと並べて聴くのもアリですね」

【参考音源】フランキー・ライモンの58年作『Rock 'N' Roll』収録曲“Waitin' In School”

 

杉田「それならストライプスがわかりやすいチルドレンじゃない!?」

鮫洲「惜しい、惜しいっすよ、ジョン先輩! 彼らはリズム&ブルースやドゥワップに影響を受けたビート・バンドの正統後継者っすから、チルドレンというよりは孫みたいな感じ!? このビミョーな違い、わかります!?」

杉田「何かイライラする」

鮫洲「ああ、申し訳ないっす! どうにも知識が溢れちゃって……」

雑色「はいはい。そういえば、まだお茶が出ていなかったですね」

鮫洲「雑色君、今日は特別に俺が煎れるから座っていてくれたまえ。ところで相談なんだが、お前がこの素敵な鮫洲先輩を新会長に推薦するっていうのはどうかな? いまからでも遅くないぞ! ん?」

雑色「こんなケツの穴の小さい自己チュー男が新会長だなんて、まっぴら御免ですよ! あ~、早くウメちゃん先輩に会いたいな」

鮫洲「……」

 雑色さんの歯に衣着せぬ言葉に、元ヤンキーの鮫洲君もしばらく凹んだようですが、おそらく部員の誰もが思っていたことなので自業自得ですかね。ともあれ、新体制で再スタートを切ったロッ研の今後に期待しましょう。 【つづく】