冬春夏秋をさまざまに彩るダニーのリサイクル
季節柄でいうと……今年はブラクストンズ(『Braxton Family Christmas』のコラムはこちら)が歌っている“This Christmas”は、アッシャーもデスチャもキャロル・キングもメアリーもMISIAもシーローもペンタトニックスも取り上げていて、もはやダニーを知らない人でも知っているほどのスタンダードだろう。
また、ジャズの世界ではジョージ・ベンソンやカーク・ウェイラムによってインストの“Valdez In The Country”が定番になっているし、メッセージの部分でいうと“Someday We'll All Be Free”は映画「マルコムX」にてアレサ・フランクリンが披露したほか、アリシア・キーズやケブ・モ、レジーナ・ベル、テイク6(とレイラ)らが歌い、“Little Ghetto Boy”はジョン・レジェンドとルーツのコンシャスなカヴァー集で取り上げられたほか、ドクター・ドレーやウータン・クランの引用が有名だ。ネタ使いも含めれば“The Ghetto”を用いたトゥー・ショートの同名曲もクラシックとなっているし、ボブ・サンクラーのハウス版も記憶される。本文にもあるように決して自作曲がそう多いわけではないダニーではあるが、ひとつひとつの楽曲にはとんでもない普遍性と求心力が備わっていて、その普遍性はメロディーにもリリックのメッセージ性にも及んでいるということなのだろう。
また、自作曲でなくとも実質的にダニーのヴァージョンが参照される例も多く、代表例はリオン・ラッセル“A Song For You”だろう。特に“Rehab”の時点で〈ミスター・ハサウェイ〉について歌っていたエイミー・ワインハウスのヴァージョンは必聴である。さらに、ロバータ・フラックとのデュエットも恰好のリサイクル例になっていて、ビヨンセとルーサー・ヴァンドロスが声を重ねる“The Closer I Get To You”や、ジョン・レジェンド&コリーヌ・ベイリー・レイらが歌った“Where Is The Love”、スカーフェイスのクラシック“My Block”で使われた“Be Real Black For Me”などは特に名高い。 *出嶌孝次
※レイラ・ハサウェイ/ダニー・ハサウェイを特集した連載〈IN THE SHADOW OF SOUL〉第88回の記事一覧はこちら