人間たちを繋ぎ止めたい
また、『The Now Now』は何とバンド史上初めて〈いつもと異なるメンバー〉で制作したアルバムでもある。マードックが欠けているのだ。ブリット・アワードでゴリラズが〈最優秀ブリティッシュ・グループ賞〉を獲得した際に刑務所からメッセージを送っていた彼は、どんな罪を犯したのかあきらかにされていないが、現在も収監されたまま。代わりに、エースなるベーシストが参加している。聞けば、TVアニメ「パワーパフガールズ」の悪役モンスター集団ギャングリーン・ギャングの一員で、見た目と素性の怪しさにおいてはマードックに負けていない。
とはいえ、実質的に本作は2D/デーモンのソロに極めて近く、これまた『The Fall』でもそうだったように、ジャケットを飾るのは2Dだけ。ほぼ全曲でデーモンがヴォーカリストを務めており、ゲストはごくごく限られている。例えば、冒頭の“Humility”でいきなり流麗なギターを披露しているのは、ジャズ/フュージョン界から招いたジョージ・ベンソン(!)。ランダムに思いついたというから、やっぱりセンスは普通じゃない。そして“Hollywood”では前作に参加してそのままツアーにも同行しているジェイミー・プリンシプルと、旧知のスヌープ・ドッグが語り手を務め、ほかに特筆すべきはファースト・アルバム『Gorillaz』の頃にコラボしたジャマイカの伝説的なベーシストであるジュニア・ダン(“Sorcererz”)と盟友グレアム・コクソン(“Magic City”)の名前があることくらいか?
よってここに刻まれているのは、ある意味でミュージシャンとしてのデフォルトに立ち返ったデーモンの姿だ。つまり、ブラー結成のさらに前に、シンセとドラムマシーンでコツコツと曲を作っていた少年時代を想起させるもの。サイケデリックなエレクトロ・ファンクで彩られたメロディーは、この人にしか醸し出せないメランコリック・ビューティーを一音一音に湛え、変容しつつあるアメリカを旅し、そこから同様に変容しつつある英国を眺める、彼のモノローグを届けている。自分が抱く不安感、望郷の念、孤独感、バラバラになった人間たちを繋ぎ止めたいという切実な訴えを。そう、いち早く公開された“Humility”の、〈ひとりになりたくない! 繋がりたい!〉という思いが全編を包み、誰もがウェルカムなコミュニティーとしてのゴリラズのスピリットを、前作とは対照的なアプローチで伝えている。〈結成〉から間もなく20年、当初は退屈しのぎのお遊びだったかもしれないが、世界が岐路に立つ2018年、彼らの存在理由と使命が鮮明に浮かび上がってきたようだ。 *新谷洋子
関連盤を紹介。
ゴリラズのアルバム。