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Photo by Paul Rider

2. 高音質UHQCDのフレッシュさ

次に、今回の国内盤CDのポイントとして、日本でプレスされたUHQCD仕様であることを挙げたい。

SACDを聴くには専用の再生機器が必要になるが、HQCDをグレードアップしたUHQCD(Ultimate High Quality CD)はCD規格に準拠しているので、すべてのCDプレーヤーで高音質再生ができる。それもアドバンテージだろう。

それぞれ2012年のソニー盤(『m b v』は2013年のオリジナル盤)と比べてみたところ、ハイレゾに近いスピード感のある中高域やクリアで立体感のある音像が売りのUHQCDで聴くと、いずれもフレッシュに響く。とくに2012年のリマスターによって音質が大幅に向上した『Isn’t Anything』は新鮮で、中高音域の豊かさもあるいっぽう、低音域のヘヴィーさも増した。『loveless』では、“only shallow”で歌がまっすぐ耳に飛び込んできたことが意外で驚くし、しかもライブ感と没入感を覚える音だ。もともとかなり音圧の低いマスタリングが異色の『m b v』は、新装盤で聴いてみると1曲目の1音目からギターが繊細に聴こえてきた。

mbvにはコルム・オコーサクがライド・シンバルを効果的に叩いている曲が多く、よく伸びる金属音が特徴的だと言える。また、“glider”のような曲には強烈な高音が入っている。これらは、今回のUHQCDで再生すると、より生々しく聴こえてきた。

『ep’s 1988-1991 and rare tracks』収録曲“glider”

そして、つい先日、6月7日からApple Musicでロスレス・オーディオの提供が始まった。これによって最高24bit/192kHzのALACでの再生ができるようになっており、mbvの作品も高音質で聴ける(ちなみに、サンプル・レートが48kHz以上の曲を聴くには、DAC=デジタル・アナログ・コンバータが必要になる)。Apple Musicのロスレスと今回のCDを聴き比べてみるのも一興だろう。

細かなちがいもある。Apple Musicで確認したところ、『loveless』と『m b v』の2作は〈Apple Digital Master〉というApple製品に最適化された高解像度の音で配信されている。また、『loveless』と『m b v』はハイレゾ・ロスレスの24bit/96kHzで配信されているが、『Isn’t Anything』と『ep’s 1988-1991 and rare tracks』はロスレスの16bit/44.1kHzだった。16bit/44.1kHzはUHQCDと同音質なので、再生の品質を考えるとUHQCDに軍配が上がるかもしれない。

 

3. 2枚組CDで聴き比べる『loveless』

もうひとつある。『loveless』については、確実にCDで聴くのがいい。というのも、LPにも配信にもない特徴として、CDは2枚組なのだ。

my bloody valentine 『loveless』 Domino/BEAT(1991, 2021)

これはソニー盤も同様だったが、ディスク1は〈remastered from original 1630 tape〉(ちなみに、ソニー盤では単に〈original tape〉だった)、ディスク2は〈mastered from original 1/2 inch analogue tapes〉となっている。前者はオリジナル盤と同じDATテープからのリマスターで、〈1630〉はソニーのPCMプロセッサーであるPCM-1630を表しているのではと推測される。そして後者は、文字どおりハーフ・インチのアナログ・テープからのリマスターである。

この2枚について、〈聴き比べてもわからない〉という声も多いが、ディスク1はオリジナル盤の音圧をアップしたものと考えていい。そして、ディスク2はステレオ感が広く低音もふくよかな、アナログらしい太い音だ。筆者が好きな『loveless』はこちらだし、〈ディスク2こそがベストな『loveless』〉と言うファンも多い。

ところで、もう時効だと思うので指摘しておくと、当時のソニー盤はディスク1と2が逆にプレスされており、さらにディスク1の“what you want”の2分46秒あたりにデジタル・ノイズがのっているなど、いろいろな問題が指摘されており、悪評が高かった(その後のプレスで特に説明もなく、しれっと修正されたようだ)。筆者が持っているのもこのエラー盤なので、今回の再発ではようやく完ぺきな形の『loveless』がリリースされた、と安堵した次第だ。

あくまでも推測だが、配信はおそらく、ディスク1のDATテープのマスターだろう。2つの『loveless』を聴き比べるためにも、ぜひCDをおすすめしたい。