バカラック/A&Mや渋谷系に繋がるブラジル音楽
──ではまず、その方面での代表作とも言えるローリンド・アルメイダ『The Look Of Love And The Sounds Of Laurindo Almeida』(68年)をピックアップされている矢藤さんのセレクトから紹介していただきましょう。
矢藤一夫(TOWER VINYL)「アルメイダはイージー・リスニング扱いされることも多いんですが、音色のみずみずしさやテクニックの確かさを隠し持ったすごいギタリストなんです。自分が年齢を重ねるにつれてようやく良さがわかってきた。そういう意味でもおすすめです。あと私はバート・バカラックが大好きなので、“The Look Of Love”をやっているというだけで得点がプラス1です」
西尾「A&Mっぽい内容ですよね。ローリンド・アルメイダはハズレなしですよ。ギターが巧いからイージー・リスニングっぽくても耳に引っかかるんです」
──ボサノヴァが60年代初めにアメリカに渡って、イージー・リスニングとしても聴かれていったのって、一種の発明だと思うんです。本国ブラジルではなかったことですもんね。
矢藤「私のセレクトの2枚目は、アルメイダと時代的にも近いルイス・ボンファとマリア・トレドの『Braziliana』(65年)。このアルバムの世界初CD化はかつて日本で行われたんです」
──90年代に橋本徹さんの〈サバービア・スイート〉でも早くから紹介されてましたもんね。“Whistle Samba”は当時を知る人ならみんな聴き覚えがあるはず。
矢藤「スキャットとか口笛とか、おいしいところが全部入ってる曲です。マリア・トレドさんのウィスパー・ヴォイスもA&Mっぽい。ルイス・ボンファはもうちょっとスポットライトが当たっていいギタリストだと思うんです。
ボンファもアルメイダと同じくスタン・ゲッツと共演したアルバム(63年作『Jazz Samba Encore!』)を残してますしね。ウェスト・コースト・ジャズのスマートさと相性がすごくいいんです」
──面白いですよね。もとはといえばウェスト・コーストでジャズをやっていたチェット・ベイカーとかを聴いて、ジョアン・ジルベルトたちが感化され、ボサノヴァが生まれたという流れなのに。
西尾「不思議ですよね。そのボサノヴァの人たちとアメリカのジャズの人たちが交流して影響を受け合ってる」
──さて、矢藤さんの3枚目は。
矢藤「ナラ・レオンの『Abraços E Beijinhos E Carinhos Sem Ter Fim...(わたしのボサノヴァ)』(84年)です。
この作品は、ボサノヴァから出発した彼女がいったん社会派シンガーになったり、いろいろ経てきてカドが取れてからのアルバム。シンプルだけど、一周まわってここにたどり着いた良さがあります。ホベルト・メネスカルのプロデュースでジョアン・ドナートも参加、ボサノヴァのスタンダード的な名曲もたくさん入っている。
彼女は渋谷系の時代にも人気があったし、フランスのクレモンティーヌとかもそうですけど、こういう人たちのおかげでリスナーが英語圏以外の音楽にも入りやすくなった気がします」
熊谷「今回もナラ・レオンは9タイトル出るんです。シリーズのメイン的な存在感ですね」