●北野 創
結束バンドの衝撃も冷めやらぬなか、声優がリアルバンド活動を行う作品「BanG Dream!」から登場したこの5人組は、青春パンク~叙情系ハードコアを下地にポエトリー要素も採り入れた音楽性、TVアニメの物語とのシンクロ、声優・羊宮妃那の唯一無二な歌唱表現を含め、キャラクターソングの可能性を拡張してくれた。「ラブライブ!」発の蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブや、フランチャイズ化で苺りなはむらも巻き込んでエリアを広げる「電音部」など、キャラソン周辺ではいま、オルタナティヴで刺激的な音楽が続々と生まれている!
●鬼頭隆生
〈音楽とその周辺〉に着目した、優れた作品に出会えた一年でした。映画では、音楽業界の構造的問題にも踏み込んだドキュメンタリー「ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅」、書籍では戦後の日米ジャズを軸とした裏社会史的な「欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ」。three blind miceの大規模リイシューから4年、思いがけず登場したこの編集盤も、当時の日本のジャズが纏っていたエネルギーと実験精神、先鋭性を浮き立たせる一枚でした。
●桑原シロー
加齢など知ったこっちゃない、とオーヴァー80世代が元気に暴れまわる光景はもはや日常的なものとなった感があるが、年輪を重ねた者だけが持つ凄みや皮膚感覚が貼り付いたこの大御所の新作を聴いたりすると、ふと神妙な気持ちに駆られて背筋がピンと伸びてしまう。この歌をここに残しておかねば、といった切実さが滲むヴォーカルに刻まれたあまりに深い皺。声色の深さと濃さはレナード・コーエンのそれとタメを張る。
●郡司和歌
2023年はライヴから夜中の小バコまで、ようやく音場へと足を運ぶ日常が戻ってきた年だった。なかでも念願の坂本慎太郎のライヴはその存在感に超絶痺れて感涙したが、多幸感迸るムードに始終笑顔になりまくりだったのは思い出野郎Aチームのライヴ。今作でも彼らの持ち味である日々に転がるふとした可笑しみや優しさに思わず笑い転げたり涙したり。家族写真的なジャケにも日常の愛が溢れているようで何だかニンマリしてしまう。いまの時代に必要な音楽だ。
●近藤真弥
半ば使い捨てのように、凄まじいスピードで多くのグループが消費されていくK-Popにおいて、年月を重ねたからこそ表現できるものがあると教えてくれるレッド・ヴェルヴェットの『Chill Kill』。幾多の苦難があっても、互いに希望という名の灯火となり進んでいこうと訴える内容は、現在の世情に対する批評性を見い出せる。5月にぴあアリーナMMでおこなわれた来日公演も、先鋭性とキャッチーさが共立した素晴らしい2時間50分でした。
●澤田大輔
フル・アルバムのリリースがご無沙汰なこともあって、双葉双一というシンガー・ソングライターの活動ぶりが(自分には)いささか見えづらくなっていた2023年、不意打ちのように届けられた氏のトリビュート・アルバム。友部正人、原マスミ、知久寿焼、ふちがみとふなと、mmm、割礼といったここでしか成立し得ない17組によるカヴァーが、どこにも帰属しない詩情をたたえた楽曲たちの輝きを改めて知らしめてくれたなあ、と。2024年はぜひ新作を!
●田山雄士
コロナ禍4年目……なんて世間一般ではもう言わないんでしょう。弛緩した空気に怖さを覚えつつ、それなりに健康に過ごせていてありがたいなとも思います。ミュージシャンの訃報が多かったので。2023年によく聴いたのは、くるりやスピッツといったベテラン勢のスルメ的なアルバム。エイプリルフールから始まり、LIQUIDROOMワンマン大成功まで駆け上がったバンド、色々な十字架にも楽しませてもらいました。ナンセンスなだけじゃなく、ヴィジュアル系への愛があふれまくったアプローチは新しかったです。
●土田真弓
2023年は自分のルーツにあたるアーティストの訃報が続き、なかでもBUCK-TICKは私がクラウトロックやニューウェイヴ/ポスト・パンク周辺を聴くきっかけのひとつだったこともあって、櫻井敦司さんのニュースは衝撃が大きすぎました。ちなみに、2023年の界隈でストライクだったのはクラウス・ノミの復刻群と併せて届けられたリミックス盤。もちろん、BUCK-TICKの最新作も。私の音楽人生に指針をもらえたこと、感謝しかないです。