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©Brian Purnell

私はシンガー

 2003年にはアルバム『One Heart』をリリース。同時に、ラスヴェガスのシーザーズ・パレス内に特設されたコロシアム劇場で〈A New Day...〉と題されたレジデンス公演をスタートする。あまりにもリスキーと囁かれた3年にも及ぶチャレンジだったが、これが大ヒット。契約が4年間に延長されたうえ、2011年にもラスヴェガスに舞い戻ってレジデンス公演を再開。そして延長に次ぐ延長を繰り返し、2019年まで続けられた。ラスヴェガスといえばセリーヌ。セリーヌといえばラスヴェガス。彼女の成功が、ブリトニー・スピアーズ、ジェニファー・ロペス、マライア・キャリー、ケイティ・ペリーをはじめ、第一線で活躍するディーヴァたちをラスヴェガスへと向かわせたのは、よく知られているところだ。かつてはエルヴィス・プレスリーやフランク・シナトラら引退間近な大御所アーティストの行き着く先と捉えられていたヴェガスだが、新しい観客層を取り込むことに成功。そのきっかけを作ったのが、セリーヌのレジデンス公演だったのだ。

 先のドキュメンタリーの中でも「パフォーマンスに戻りたい」と、しきりに訴えていたセリーヌ。彼女のステージを観たことがある人なら、きっと頷けると思うのだが、とにかくエンターテインメントとしての完成度が突出している。少々やりすぎでは?と思えるほどの120%のパワーで歌い、コスチュームをチェンジし、ダンサーと絡んだり、派手なアクションで盛り上げる。曲間のトークも実に絶妙で、時に自虐的だったり、おどけてみせたり、常にオーディエンスを巻き込みながら笑せる。歌に関しては、いまさらながらアクロバティックな技巧が唯一無二であるのはもちろんのこと、とにかく澄み渡る歌声の美しさが絶品だ。パンチの効いたパワフルなドライヴ感と、胸焼けしない爽やかさ。スムースに淀みなく浮遊しながら酔わせてくれる。

 デビュー当初から「私はシンガーだ」と断言してきたセリーヌは、ほんのわずかな例外を除いて、ほぼすべての楽曲の作詞・作曲に本人は関わっていない。少しだけ歌詞を変えたり、歌い回しをアレンジするだけで共作者としてクレジットを得て、莫大な印税を得ることもできるはずだが、あえてそうしないのはプロの作詞家・作曲家に対するリスペクトなのだろう。自身は歌に集中し、レコーディングとステージだけで稼ぐ。いまや希少なシンガーと言えるかもしれない。そのせいか、意外な方面から彼女に歌ってほしいという曲が寄せられることも少なくない。2007年のアルバム『Taking Chances』には、現ボン・ジョヴィのジョン・シャンクスからリンダ・ペリー、元エヴァネッセンスのベン・ムーディやディジー・ミズ・リジーのティム・クリステンセンまで、ロック界の強者スターが集結した。2013年の『Loved Me Back To Life』には、シーアやニーヨ、スティーヴィー・ワンダーらが協力。映画「デッドプール2」の主題歌“Ashes”のリミックスには、ラスヴェガスで交友が育まれたスティーヴ・アオキが参戦した。

 2016年1月には夫が他界し、その2日後には兄も失った。さらに自身の闘病生活もあり、すべてが順風満帆とは言い難い私生活だが、そんな逆境を跳ね返すかのごとく、2019年には12枚目の英語アルバム『Courage』をリリース。〈勇気〉と名付けられた同作は、17年ぶりに全米No.1に輝いた。タイトル曲では、亡き夫に向かって前進する決意が切々と綴られている。

 「這いずってでもステージでまた歌う」と、拳を握るセリーヌ。パリ・オリンピック開会式での歌唱を耳にして、完全復活が近いのでは?と思ったファンは多いだろう。そして改めて彼女の歌を聴きたいと願った人は多いはずだ。すでにラスヴェガスでの新たなレジデンス公演もほぼ決定しているとの噂も流れはじめている。同時にニュー・アルバムの準備も進められているのではないか――と密かに期待を募らせているのだが。

このたび日本盤がリリースされたドキュメンタリー作品のサントラ『I Am: Celine Dion』(Columbia/ソニー)

左から、“Ne partez pas sans moi”を収めたコンピ『Now That’s What I Call Eurovision Song Contest』(Now)、91年のサントラの新装盤『Beauty And The Beast』(Walt Disney)、97年のサントラ『Titanic』(Sony Classical)

セリーヌ・ディオンの参加作。
左から、2005年のトリビュート盤『So Amazing: An All-Star Tribute To Luther Vandross』(J)、トニー・ベネットの2006年作『Duets: An American Classic』(Columbia)、2007年のトリビュート盤『We All Love Ennio Morricone』(Sony Classical)