阿久悠が描く、堕ちていく男の色香
そして、まるで仮面の告白とでもいうべき響きを奏でる歌詞。それを作詞したのは、ドラマの原作も手掛けている阿久悠である。阿久とジュリーの蜜月の日々の最初の一歩となったこの曲において阿久が求めていたのは、〈虚無〉のループのなかで現実を忘れて愛に溺れる男がみせる鮮烈な一瞬のようものだったと考えられるが、深く堕ちていく男が放つとろけるような香りをジュリーは実に巧みに醸し出してみせ、彼の要求にみごと応えたのだった。
一方作曲は、これから先、阿久と組んでジュリーの名曲をいくつも量産していく大野克夫が担当している。どうやらこの曲は〈コンペ〉で選ばれたものだったらしく(井上忠夫、都倉俊一、荒木一郎、加瀬邦彦、井上堯之といった豪華な面々が参加していたそう)、演出家・久世光彦との打ち合わせの席でドラマのストーリーを聞いてすぐに頭の中でメロディーが流れ出し、たった一晩で曲を仕上げて久世をビックリさせた、というエピソードが残されている。
ドメスティック感が強めなメロディーとロックフィーリングが高めなサウンドが同居しているあたりが曲の特徴を形成しているが、そこに時代に即したジュリーのアンニュイなボーカルが乗っかったことでやけに人間臭い感触が生まれ、揺るぎない説得力が浮かび上がっている点が素晴らしい。
アイドルから脱皮し、仄暗い諦念を宿した歌
何はさておき、ジュリーの歌声である。ひと言で表せば、思いっきり気障。そこはかとなく漂うニヒリスティックな匂い、やけに濃ゆい色をした〈陰〉の部分も気になる。底辺に流れているどこか静かな諦念のようなものはドラマの主人公の心情を表現しているように映るし、とにかく存在の美しき哀しみが聴き手の胸を締め付けてやまない。
1975年8月21日にリリースされたこの通算14枚目のシングルは、アイドル・ジュリーを脱皮させたエポックな名曲としても認識されている。そして結果的には沢田研二史上もっともセールスをあげたシングルとなった。