名裏方としての活躍
そんなPIR最終作で人気を集めた“The Sweetest Pain”と“I’ll Never Forget (My Favorite Disco)”を共作したのが、作詞家のシンシア・ビッグスである。この頃からソングライター・チームを組みはじめたワンセルとビッグスのパートナーシップはトム・ベルとリンダ・クリードの関係を思わせ、スタイリスティックスの“Hurry Up This Way Again”も彼らの共作だった。他にもジョーンズ・ガールズの“Nights Over Egypt”やパティ・ラベルの“If Only You Knew”など、80年代前半のPIRクラシックはこのコンビによる曲が多い。A&RとしてもPIRのリリースを統括し、MFSB『Mysteries Of The World』(80年)に代表されるミステリアスなサウンドで新しいフィリー・ソウル像を提示。アレンジを手掛けたテディ・ペンダーグラス“Love T.K.O.”はその象徴だ。
社外でもグローヴァー・ワシントンJr.やピーセス・オブ・ア・ドリームといった地元のフュージョン勢をバックアップしたワンセル。80年代中期には、配給が変わったPIRでフィリス・ハイマンなどに関わりながら、リヴァート、マイルス・ジェイ、ローズ・ロイスらの外部楽曲も手掛けていく。また、UKのジュニアに曲を提供し、“The Sweetest Pain”がルース・エンズにカヴァーされた翌年には、英国の10からソロ作『Captured』(86年)を発表。90年代のPIRでユニヴァースのアルバム(91年)を任されたワンセルは、ギャンブル&ハフのスピリットを最後まで音で体現したミュージシャンだったと言える。
2004年にインスト中心のソロ作『Digital Groove World』を自主リリースしてからは、ゴスペル・ハープ奏者ジェフ・メジャーズの作品でアレンジを手掛け、息子ポップ・ワンセルが関わったエル・ヴァーナーのデビュー作に親子で参加するも、自身のリリースはストップ。長いブランクの後、17年ぶりのソロ作として2021年に出したのが『The Story Of The Flight Crew To Mars』だった。ゲストのテリー・デクスターら〈乗船員〉と200年先の火星をめざすというコンセプトは、原点回帰にして未来への希望でもあった。が、ワンセルは、予定より早く火星に辿り着いてしまったのかもしれない。 *林
左から、デクスター・ワンセルの編集盤『Stargazer (The Philadelphia International Records Anthology 1976-1980)』(BBR)、PIR時代のアルバム全作をまとめた『Life On Mars / What The World Is Coming To / Voyager / Time Is Slipping Away』(BGO)、インスタント・ファンクの編集盤『The Albums 1976-1983』(Robinsongs)
ワンセル親子の参加作を紹介。
左から、トレイ・ソングスの2010年作『Passion, Pain & Pleasure』(Atlantic)、エル・ヴァーナーの2012年作『Perfectly Imperfect』(RCA)