大型連休が近付き、陽気まで浮かれているような4月も後半のある晴れた日。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。おや、見慣れない小柄で色黒の実直そうな男子がいますよ。

 

【今月のレポート盤】

DR. FEELGOOD I'm A Man: Best Of The Wilko Johnson Years 1974-1977 Parlophone/ワーナー(2015)

※試聴はこちら

 

鮫洲 哲「副会長の鮫洲だ! ロッ研が誇る知性派ヤンキーとは俺のことだぜ!」

梅屋敷由乃「会長の梅屋敷です。わからないことがありましたら、何でも訊いてくださいね」

穴守朔太郎「オイラまだ入部すると決めたわけじゃないんだけど……このサークルはやっぱりフェスには行ったりするんかい?」

梅屋敷「サークルの活動としてではありませんが、皆さん個人では行きますよ。私も昨年はいろいろなフェスに参加しました」

穴守「そうなんかい。オイラようやく受験勉強から解放されたもんだから、今年こそは〈フジロック〉に行くんべえと思って。何しろ病気を克服したウィルコ・ジョンソンが出演するんで……」

鮫洲「おお、少年もウィルコ好きか! んじゃ、コレはもう聴いたか? ドクター・フィールグッドのベスト盤『I'm A Man: The Best Of Wilco Johnson Years 1974-1977』だ!」

穴守「あったりめえさ! フェスの予習に欠かせねえべえ!」

鮫洲「おっと、そいつは聞き捨てならねえな。すると少年はライヴを観に行くためにCDをチェックしているのかよ、オイ!?」

穴守「そりゃそうだいね」

鮫洲「呆れた奴だな。ユノっち、言ってやってくれよ!」

梅屋敷「え~っと、もちろんライヴも素晴らしいのですが、ロッ研はそれ以上に録音物にこだわったサークルなんですの」

 鮫洲「ウィルコのライヴは確かにヤベエ。マシンガン・ギターも開脚ジャンプも最高だ! けどよ、それと同じくらいCDもイケてるんだっつーの!」

梅屋敷「説得力が全然ありませんけど」

穴守「いや、わかる! このCDにはもう生で聴くことのできない、フィールグッドの名演が詰まっているってことだんべぇ!」

鮫洲「そう、そうだよ、同志!」

梅屋敷「えぇ!? まあ確かに、ヴォーカリストのリー・ブリローさんは亡くなられていますし……」

鮫洲「そう、ウィルコのバッキバキな硬質ギター・カッティングと、リーの苦みばしった歌&ブルース・ハープのせめぎ合いこそが、初期フィールグッドの最大の魅力だからな!」

梅屋敷「そう考えると、ライヴ盤を含むウィルコさん在籍時の4作品から万遍なくセレクトされたこの編集盤は、聴き応え十分ですわね。ここに漲っている熱気こそがパブ・ロックの醍醐味なのでしょうか!?」

穴守「んだ! けども、もっと史学的に言うんなら、彼らは60年代のブリティッシュ・ビートと70年代のパンクを橋渡しした存在なんさあ」

 鮫洲「なかなかロッ研っぽいことを言うじゃねえか! でもそれだけじゃねえ。彼らがパンク以降のシーンに与えた影響も決して小さくはないぜ」

穴守「ウィルコの特殊なカッティングは、ギャング・オブ・フォーポスト・パンク世代にもフォロワーを生んでらぃね」

梅屋敷「最近だとストライプスが影響を公言していますよね。レイザーライトジョニー・ボレルによるソロ作『Borrell 1』からも、フィールグッド愛が感じられました。そういえば、ウィルコさんは日本人アーティストとの交流も深いのですよね!?」

穴守シーナ&ロケッツ周辺の作品に参加したり、ミッシェル・ガン・エレファントのレーベルからソロ作を発表したりしているんさあ」

鮫洲「来日経験は15回を超え、本国UK以上に日本のファンから愛されていると言っても決して大袈裟じゃないからな。でも流石の少年も、坂上忍がロック歌手時代にウィルコと共演していることは知らねえか!?」

穴守「名曲“恋して夢中を抱きしめて”だろ! オイラが群馬の田舎モンだと思ってバカにしてらぃなあ」

鮫洲「いや、テメエの出身地なんか知らねーっつの。けど少年、思った以上に知識もあるしハートも熱いしよ、なかなか見込みのある男だな」

穴守「そうかい? えへへ。ウィルコの話をしてるうちに、何だかおもしろそうなサークルだと思えてきたから、オイラ入部することに決めたよ!」

梅屋敷「わ~、今年2人目の新入部員さんですよ、とても嬉しいです! お茶を煎れるので乾杯しましょう!」

 新メンバーも加わり、順風満帆に新年度の幕を開けたロッ研。すでにもう1人新たな仲間がいるようですが、その登場は次回を待つことにしましょう。【つづく】