多くの才を生んだマイアミ・サウンドの殿堂、その産物はまだまだあって……

 眩しいばかりの陽光が差し込み、椰子の木が南風に揺れる――そんな書割りのイメージをそのままサウンドにして世界を席巻したのが、フロリダはマイアミを拠点にさまざまなアーティストを送り出したレーベル/プロダクション/ディストリビューターのTKである。とりわけ70年代には世界に向けて〈マイアミ・サウンド〉を発信し、ディスコ・シーンの隆盛にも大きく貢献した一大ブランドであることは本連載の第93回でも膨大なリイシュー作品と共にヒストリーを紹介した通りだ。

 とはいえ、彼らの生み出したサウンドはもちろん常夏のグルーヴや海沿いのメロウ・チューンばかりではない。ソウルファンク、ディスコ、AOR、フュージョンなどそのカテゴリーや評価軸もさまざまで、〈マイアミ・サウンド〉の一言では括れないほど多岐に渡る作品がTKの豊潤なカタログには数多く残されているのだ。

 そんなわけで、今回はこのタイミングで新たに日本盤でリイシューされた10タイトルを紹介しておこう。恒例の親切企画としてコンパイルされた日本編集の廉価盤『Pure Miami Jewels』もその宝石たちの輝きを気軽に知るための助けになるはずだ。

 定期的な復刻のサイクルもあってずいぶんTK作品のCD化も行き届いてきたが、それでもまだ廃盤状態のブツや未CD化の宝石はゴロゴロ転がっている。今後も復刻が進むことを願うばかりだ。 *bounce編集部

 

この秋に復刻されたTKの宝石たち

MIAMI The Party Freaks Drive/Solid(1974)

名匠ウィリー・クラークが指揮を執った人種混成バンドのデビュー作。当時のTKらしいパーティー感覚を持ちながら泥臭く粗削りなファンクをかます連中で、オール・ザ・ピープルでも歌っていたロバート・ムーアをリードに据えてソウルフルに暴れまくる。ヒットした表題曲はアイザック・ヘイズ“Theme From Shaft”の換骨奪胎的なファンキー・チューンだ。 *林

 

PAULETTE REAVES Secret Lover Blue Candle/Solid(1976)

マイアミの歌姫による処女アルバム。制作はクラレンス・リードらで、ミリー・ジャクソンよろしく愛や不倫をテーマに、マーヴィン・ゲイ曲へのアンサーとも取れる表題曲や“Take Back Those Things I Said”といったスロウ・バラードをやや高めの声でしみじみと歌い上げる。メイブル・ジョンベイビー・ワシントンの名曲も愛情込めてカヴァー。 *林

 

MIAMI Notorious Miami Drive/Solid(1976)

引き続きロバート・ムーアのヴォーカルをフィーチャーし、ウィリー・クラークの采配したセカンド・アルバム。マイアミの土地柄に着想を得たゴキジェット・ファンク“Kill That Roach”が強力だが、ベティ・ライト曲を取り上げた爽やかな“If You Love Me(Like You Say You Love Me)”や瀟洒な表題曲のようなインストもいい。別ラインで復刻済みの次作『Miami』も必聴。 *出嶌

 

TED TAYLOR Ted Taylor 1976 Alarm/Solid(1976)

50年代から活動し、この時点でも十分にヴェテランだったオクラホマ出身のソウル/ブルース歌手。これはTK系列に残した唯一のアルバムで、ヒットした“Steal Away”やサム・ディーズ作の“Wrapped Up In A Good Woman's Love”など味わい深い名唱を収めたサザン作法主体の佳作だ。マラコマッスル・ショールズの腕利き演奏陣がバックを固めているのもポイント。 *出嶌

 

WILSON PICKETT Chocolate Mountain Wicked/Solid(1976)

自身のウィキッドから出したTK配給のアルバム。71年ヒット“Don't Knock My Love”の生みの親であるブラッド・シャピロが制作したナッシュヴィル録音作で、ファンキー・ディスコやサザン・バラードなどを相変わらずの激情ヴォイスで歌い倒す。キャプテン&テニールの名曲“Love Will Keep Us Together”をギラギラにカヴァーするクドさも最高。 *林

 

TIMMY THOMAS Touch To Touch Glades/Solid(1977)

TKで活躍した鍵盤奏者/シンガーによるグレイズ時代最後のスタジオ録音作。多くの曲でノエル・ウィリアムスがペンを執り、前作に続いてエレピやクラヴィネットを縦横無尽に操った賑やかなディスコ・ダンサーが登場する。“Africano”のようなトライバルなインストも話題だが、彼らしい夕暮れムードのメロウ・ソウル“When A House Got Music”も快演。 *林

 

BRANDYE Crossover To Brandye Kayvette/Solid(1978)

ジョニー・テイラー“Disco Lady”などのバックで美声を放っていたデトロイトの女性トリオがブラッド・シャピロの制作で吹き込んだ唯一のアルバム。弦アレンジにデヴィッド・ヴァン・デピットも関わった楽曲は都会的な雰囲気で、グレイ&ハンクス作のミディアム“How Long”などを軽やかに歌うモダンな感覚はジョーンズ・ガールズにも通じている。 *林

 

THE FACTS OF LIFE A Matter Of Fact Kayvette/Solid(1978)

女傑ミリー・ジャクソンの導きで、ブラッド・シャピロ率いるケイヴェットから登場した男女混成トリオの2作目にして最終作。ダブル不倫などさまざまな恋愛のドラマを描いた前作に続き、男女の掛け合いが活きる“Did He Make Love To You?”や狂おしい女ののど自慢“He Ain't You”など多様な愛の在り方を濃密なサザン・マナーで歌い上げている。不倫は文化! *出嶌

 

BETTY WRIGHT Betty Travelin' In The Wright Circle Alston/Solid(1979)

マイアミを代表する歌姫のアルストンでの最終作。初のセルフ・プロデュース作でもあり、華美なディスコ曲も飛び出すが、レイドバックしたミディアムや柔和なバラードなど、彼女らしいソウルの良心が息づく。ダレル・バンクス“Open The Door To Your Heart”とオージェイズ“Love Train”をディスコ・メドレーにした打ち上げ花火的な賑やかさも悪くない。 *林

 

THE JB'S Groove Machine Drive/Solid(1979)

50年近いヘンリー・ストーンとの交友もあってJB関連の作品がいくつか残されているTKだが、これはJBファンにもスルーされ続けてきた一枚。名称こそJB'sながらいつものノリではなく、ディスコ対応のリズム・トラックがコーラス&ホーンズを纏って突進する無機質なグルーヴはJB関連作でも異色。ただ、表題通りのマシーン的なミニマル感はいまこそ楽しめるはずだ。 *出嶌