多様な文化が普通に入り交じるUKアーバン音楽の世界だが、80年代からエクレクティックな作法でメインストリームに金字塔を立てたカリビアン・ルーツの大御所がいる。海のように広いその快音に改めて漕ぎ出そう!!

 ブリティッシュ・ソウル、現在はUKソウルという呼称で定着している英国産R&B。その多くに共通するのは、ジャマイカなど西インド諸島からの移民や子孫がアメリカのソウル・ミュージックに憧れを抱きつつ自由な解釈を試み、結果的に米国産のR&Bとは別種のハイブリッドな魅力を放っていることだ。1950年にトリニダード・トバゴで生まれ、58年に家族とロンドンに移住したビリー・オーシャンもそんなひとりで、USのヒット・チャートでも成功を収めたUKソウルのヴェテランである。

 イギリスでもっとも成功した黒人のレコーディング・アーティストと言われ、今年初めには英国政府に大英帝国勲章3等勲爵士(コマンダー)の称号を授けられた国民的シンガー。ただし70年代前半の彼は、本名のレスリー・セバスチャン・チャールズにちなんだレス・チャールズ名義でスパークからソロ・デビューするも、洋服の仕立て職人として働きながら夜にイースト・エンドのパプで演奏したり、スコーチド・アースというグループを組むも芽が出ず、フォードの自動車工場で働きながらデモを作っていた苦労人だった。努力が報われたのはビリー・オーシャンと名乗ってGTOから再出発した75年からで、ソウル、ディスコ、AOR、シンセ・ポップなどのサウンドを乗りこなして、ジャイヴ在籍時の80年代半ばに黄金期を迎えている。そんな彼も、いまや半世紀におよぶキャリアの持ち主だ。

 近年だと例えば2009年作『Because I Love You』のジャケットに写るドレッドヘアのイメージが強いラスタファリアンのオーシャンは、トリニダードでの幼少時代からカリプソに熱中していたという。英国移住後は、ビートルズやローリング・ストーンズなどのブリティッシュ・ロックに刺激を受け、オーティス・レディングやサム・クックなどのソウルの虜にもなり、それが彼の多彩な音楽性へと繋がっていく。実際にジャイヴ時代にはビートルズの“The Long And Winding Road”をカヴァーしているし、2013年の企画盤『Here You Are』ではサム・クックやボブ・マーリーの曲を歌ってもいた。

 ロンドンで設立されたゾンバを母体とするジャイヴが世界的な名門レーベルへ成長するきっかけのひとつとして、オーシャンの全米でのブレイクが後押しとなったことも彼の功績だろう。同じトリニダード出身のソングライター/プロデューサー、キース・ダイアモンドと共作した“Caribbean Queen(No More Love On The Run)”が84年に全米チャート1位となり、オーシャンの人気もジャイヴのブランド力も急上昇したのだ。当初は“European Queen(No More Love On The Run)”というタイトルで発表したが、〈ヨーロピアン〉を〈カリビアン〉と変えたことでオーシャンのルーツが浮き彫りになったのもよかった。伸びやかなハイ・テナーのヴォーカルが冴えるモダンなポップ・ソウルで、シンセやギターのリフ、ヴィンセント・プライス風の笑い声などがマイケル・ジャクソンの“Billie Jean”を想起させた点も人々の関心を集めたのかもしれない。

 続いて全米チャート2位となった“Lov­erboy”も含めてマイケルの『Thriller』的なムードや作法を取り込んだことはほぼ確実で、GTO時代にもマイケル風の曲を歌い、その後エピックのレーベル・メイトとなったことからも、同じ黒人シンガーとしてマイケルのような全方位型のポップスをめざしていたのだろう。思えばオーシャンはGTO時代、マイケル作品のソングライターとなるロッド・テンパートンが在籍していたヒートウェイヴとレーベル・メイトで、『Off The Wall』の楽曲を意識したようなディスコ・チューンも歌っていた。ちなみに、エピックでの2作をプロデュースしたナイジェル・マルティネスは、ヒートウェイヴの作品にも関わっていた。

 80年前後のオーシャンは、同じUKのデレゲーションやリアル・シングの仕事で知られるケン・ゴールド(ミッキー&デン)と組んでノーランズなどに楽曲を提供するソングライターとしても活動していた。提供曲のいくつかはGTO~エピック時代のアルバムにて自身も歌っていたりするのだが、そのうちのひとつ“Stay The Night”をラトーヤ・ジャクソンが採り上げたこともマイケルとの結びつきを意識させる。ついでに言えば、ジャイヴでの最終作『Time To Move On』(93年)には、当時のレーベル・メイトで後にマイケルに曲を提供するR・ケリーを制作陣に招聘。ソングライティングやプロデュースを通してニアミスを繰り返していたマイケルとオーシャンだったのだ。

 映画「ナイルの宝石」の劇中歌となったジャイヴ時代の“When The Going Gets Tough,The Tough Gets Going”(85年)もオーシャンの代表曲で、これは80年代前半によく聴かれたモータウン・ビートの再解釈的なシャッフル・ナンバー。もっともオーシャンはGTO時代の“L.O.D.(Love On Deli­very)”(76年)などでモータウン~インヴィクタス的なノーザン・スタイルの曲をやっており、これらでのエモーショナルなヴォーカルはチェアメン・オブ・ザ・ボードのジェネラル・ジョンソンを彷彿とさせる。UKのアーティストとしては、同時期に“You Sexy Thing”(75年)が全米でヒットしたホット・チョコレートのエロール・ブラウンも同タイプの声質でインヴィクタス風の曲を歌っており、彼らの活動も刺激になっていたかもしれない。また、ケン・ゴールドとのコンビで楽曲提供したひとつにレニー・ウィリアムスの“Taking Chances”(81年)があるが、バラードで熱っぽく噛み締めるように歌うスタイルにはレニーからの影響も感じられる。

 そんなオーシャンも今年で70歳となり、誕生日の1月21日には新曲“We Gotta Find Love”をリリースした。これは11年ぶりに発表するスタジオ録音のオリジナル・アルバム『One World』の先行曲で、ジャイヴ時代を思わせる80年代風のポップなミディアム。それもそのはず、これを手掛けたのはジャイヴ時代に『Love Zone』(86年)にてウェイン・ブレスウェイトと共同プロデュースしていたバリー・イーストモンドなのだ。アップの表題曲やバラードの“Nothing Will Stand In Our Way”も当時のアルバムに入っていてもおかしくない普遍的なポップスといった印象だが、〈一度立ち止まって人生について考える〉という全体のテーマは古希を迎えた人生のヴェテランでもあるオーシャンらしい。英米で録音し、トリニダードでの音楽体験を含む現在までのキャリアを総括した新作は、彼の音楽を初体験する世代にもドアを開いてくれている。

ケン・ゴールドやベン・フィンドンの関連作を紹介。

 

ESSENTIALS
ビリー・オーシャンの名作たち

BILLY OCEAN 『Billy Ocean』 GTO/Funky Town Grooves(1976)

GTOからのデビュー作。オーシャンと曲を書いているベン・フィンドンのプロデュースで、当時全盛のフィリー・ソウルと60年代モータウンを模したサウンドが、USソウルへの憧憬を隠さないUKらしい。ヴォーカルも若々しく勢いがあり、ポップな楽曲をいっそう輝かせる。全米ヒットした“Love Really Hurts Without You”や“L.O.D.(Love On Delivery)”は、ひとりフォー・トップス状態だ。 *林

 

BILLY OCEAN 『City Limit』 GTO/Funky Town Grooves(1980)

シングル・オンリーで出したリック・ホール制作のフェイム録音曲を挿み、ケン・ゴールドに制作を委ねたGTOでの2作目。ノーランズやデルズ、ラトーヤ・ジャクソンも歌った曲の本人版など、大半は次のエピック盤にて再録音されるが、ゴールドとコラボした本作の質感はデレゲーションやリアル・シングに近い。次作で冒頭を飾る“Are You Ready”はMJ〈今夜はドント・ストップ〉マナー。 *林

 

LA TOYA JACKSON 『La Toya Jackson』 Polydor/Cherry Pop(1980)

オーシャンとケン・ゴールドのペンによる“Are You Ready”は、オーシャンが2/3作目で披露していたマイケル・ジャクソン風の爽快なアップで、ここでラトーヤが歌うのも頷けるほどのマイケル感が凄い。トロピカル路線に開眼するのも早かった彼女だけにオーシャンの作風が気に入ったのか、ラトーヤは次作でもゴールド&オーシャン作の“Stay The Night”を取り上げている。 *出嶌

 

NOLANS 『The Best Of The Nolans』 Epic(2004)

ベン・フィンドンがバックアップしていたアイリッシュの姉妹グループで、日本でもアイドル人気を博したノーランズ。『Making Waves』(80年)収録曲で、〈ときめきTWENTY〉の邦題も知られる全英ヒット“Who's Gonna Rock You”はオーシャンのペンによるもの。彼が自身の2~3作目で披露したなので実質はカヴァーということになるが、彼の作風が宿す普遍性がよくわかる一例として。 *出嶌

 

BILLY OCEAN 『Nights (Feel Like Getting Down)』 Epic/ソニー(1981)

GTOの消滅と重なるタイミングで生まれた3作目にしてエピック移籍作。過渡期の作品ゆえか大半は前作収録曲をナイジェル・マルティネスのプロデュース/リアレンジで歌い直したものだが、全体的にシャープで小気味良くなったアレンジの洗練ぶりは冒頭の“Are You Ready”だけでも明白だ。マイケル×クインシーへの意識も強まり、AOR目線でも楽しめるスムースな好盤と言えそう。 *出嶌

 

ふたたびナイジェル・マルティネスと組んだエピックでの2作目は、単独作の曲が増え、ヴォーカルも逞しくスケールアップした。ジョシー・ジェイムスともペンを交えた表題曲など洗練されたアーバン・ソウルが黒い艶を放ち、EW&F風のホーンも活躍。オーシャンのトリニダード・ルーツを改めて伝えるカリプソ風味のディスコ・ファンク“Calypso Funkin'”やレゲエの“Mind Games”も快調だ。 *林

 

BILLY OCEAN 『Suddenly』 Jive/Cherry Pop(1984)

大ヒットした“Caribbean Queen(No More Love On The Run)”を含むジャイヴでの初作。シンセ・ベースを担当するキース・ダイアモンドの制作で、バリー・イーストモンドも鍵盤で参加した楽曲はカシーフに通じるミドル80sのNYサウンド感が強く、ファンク・ロックな“Loverboy”やセンティメンタルなバラード“Sud­denly”なども含めてダイナミックなヴォーカルで乗りこなす。 *林

 

RUBY TURNER 『Livin' A Life Of Love: The Jive Anthology 1986-1991』 SoulMusic(2017)

ジャイヴにおけるオーシャンの後輩で、UKソウルの歌姫としてはミーシャ・パリスやキャロン・ウィーラーの先輩。ジャイヴでの初シングルとなったステイプル・シンガーズ“If You're Ready(Come Go With Me)”のカヴァー(86年)がオーシャンの制作で、ハッシュ・サウンド風のシンプルな打ち込みのトラックでジョナサン・バトラーとソウルフルに掛け合う。裏方としての代表作。 *林

 

BILLY OCEAN 『Love Zone』 Jive/Cherry Pop(1986)

全英2位、全米6位(R&B首位)という過去最高のチャート成績を収めたジャイヴでの2枚目。ジャケの佇まいが示す通り全編がバリー・イーストモンド&ウェイン・ブレスウェイト制作によるブラコン仕立て。全英1位に輝いた映画「ナイルの宝石」主題歌“When The Going Gets Tough, The Tough Get Going”こそポップだが、都会的なミディアム~スロウで酔わせる大人の味わいが絶品だ。 *出嶌

 

MILLIE JACKSON 『An Imitation Of Love』 Jive/Funky Town Grooves(1986)

80年代中期からの数年間、オーシャンと並ぶジャイヴの看板となったレディ・ソウルの移籍第1弾。ティミー・アレンらがプロデュースする本作でオーシャンは、ブライアン“チャック”ニューが手掛けたミディアム・スロウ“Love Is A Dangerous Game”をウェイン・ブレスウェイトらと共作していた。ハッシュ系の打ち込みサウンド上でミリーのディープでハスキーな歌声が際立つ好曲だ。 *林

 

BILLY OCEAN 『Tear Down These Walls』 Jive/Cherry Pop(1988)

大半を手掛けるバリー&ウェイン組とブラコン路線を継続しつつ、R&Bがストリート感を強めていく時代の変わり目も投影した一枚。前作にも絡んだ大物ロバート・ジョン“マット”ランジが数曲を手掛けてポップさを演出し、表題曲のアレンジでは新進気鋭だったテディ・ライリーが跳ねたニュー・ジャックのビート感覚を持ち込んでいる。次作『Time To Move On』(93年)も必聴だが……。 *出嶌

 

BILLY OCEAN 『Because I Love You』 Aqua Music/Cooking Vinyl(2020)

ゼロ年代唯一のスタジオ録音アルバム。ドレッドヘアで写るジャケットのようにラスタファリアンである自身を歌った曲も含むが、オーセンティックなバラードからUKガラージ以降のダンス・チューンまで、前作からの長いブランクを埋めるかのように新たな試みを交えた意欲作だ。サックスが活躍するポップなアップ“Can't Take It”のリミックスはH・マネーがテック・ハウス調に改造。 *林

 

BILLY OCEAN 『Here You Are』 Aqua Music/Sony(2013)

アートワークからもわかるように自身のルーツ音楽を掘り下げたカヴァー主体の企画盤(現在はベスト盤の付いたお得な2枚組セットでメジャーからリイシュー)。サム・クックやナット・キング・コール、ボブ・マーリーらで知られる名曲を心地良く枯れた歌声と簡素なアレンジでゆったり聴かせる好内容だ。バリー・イーストモンドと書き下ろした唯一のオリジナル“Here You Are”も沁みる。 *出嶌

 

ゆっくり楽しみたいリイシュー

VARIOUS ARTISTS 『Stone Crush: Memphis Modern Soul 1977-1987』 Light In The Attic(2020)

 思わず手が止まってしまうような状況は続いておりますが……リイシューは不要不急なので、好きなタイミングで好きに落ち着いて楽しむ感じでいいかと思われます。ってことで、まずはレーベル買いされる復刻ブランドの筆頭、ライト・イン・ジ・アティックからの最新コンピレーションとなる『Stone Crush: Memphis Modern Soul 1977-1987』(Light In The Attic)を大推薦しておきましょう。こちらはかのスタックスが店じまいした後のメンフィスにおいて、それでも成功を夢見た無名アーティストたちのローカル・ソウル音源を10年スパンで選りすぐった作品。ジャケだけ見るとひなびたブルージーな雰囲気をイメージされるかもですが、リック・ジェイムズへの憧れ丸出しなOT・サイクスの“Stone Crush On You”(81年)を筆頭に、フランキー・アレクサンダーのメロウな“No Seat Dancin”(86年)、サー・ヘンリー・アイヴィーの“He Left You Standing There”(77年)などなど、スウィートなグループもの、ブギー、泥臭いファンク、伝統的なサザンもの、ブラコンなどスタイルも時代もさまざまで、たぶんマニアの方々しかピンとこなそうな音源ばかりがひしめいています。よくわからないですが、わかるためにチェックしたい逸品です。

CRAC 『All For You』 CRAC/KingUnderground/Pヴァイン(2020)

 お次はローカル発掘モノ繋がりということで、シラキュースのローカル・バンドだというCRACが80年に自主リリースした唯一のアルバム『All For You』(CRAC/KingUnderground/Pヴァイン)をオススメ。フュージョン寄りのメロウ・グルーヴが楽しめる作品で、芯のブレた(失礼)多才ぶりでファンクもラテンも多様なスタイルを粋にこなす姿が楽しい一皿です。何だかんだ抵抗できない!

RICHARD MARKS 『Love Is Gone: The Lost Sessions 1966-1977』 Now-Again(2020)

 最後は、ナウ・アゲインからの重厚な出土品。アトランタで活動したギタリスト/シンガー/ソングライター、リチャード・マークスの蔵出し曲集『Love Is Gone: The Lost Sessions 1966-1977』(Now-Again)を。こんなんいつ聴くのよ!と思ったら時間だけはありそうですね……。 *出嶌孝次