柔らかな陽射しが気持ち良いある秋の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。おや、久しぶりにオンちゃんがやって来ましたよ。
【今月のレポート盤】
THE KINKS 『Lola Versus Powerman And The Moneygoround, Part One: Legacy Edition』 Pye/Legacy/ソニー(2014)
生麦 温「おはよう! 今日は1年生コンビが顔を揃えているね」
雑色理佳「あ、オン先輩! 就職が決まったんですって!?」
逸見朝彦「おめでとうございます! 音楽関係の仕事だと聞きました!」
生麦「うん、大学から近くて引っ越す必要もないし、ホント何よりだよ」
逸見「データ先輩は地元に帰るらしいですね。コヤス先輩はほぼ留年確定だとか」
生麦「あはは、どうだろな~。あれ、いま流れているのはキンクスの70年作『Lola Versus Powerman And The Moneygoround, Part One』だね!」
雑色「流石はお目……いや、お耳が高い! 先日2枚組の〈Legacy Edition〉で登場したんですよ」
逸見「最新リマスターに加え、Disc-2にはバンドが手掛けた映画『Percy』のサントラを収録。さらに計17曲ものボートラが追加されて聴き応え十分です。ちなみに本作はデビュー50周年を記念したリリースで、これを皮切りに今後ソニーから続々とキンクスの作品が〈Legacy Edition〉化されるようですね」
雑色「逸見ちゃんってググるのだけは誰よりも早いよね! いまさっき〈今日初めて聴いた!〉って言ってたのに、にゃはは」
逸見「それほどでもないよ!」
雑色「いや、褒めてないから」
生麦「やっぱりキンクスは良いね。60年代のUKバンドでいちばん好きかもしれない」
逸見「へえ、珍しいですね。キンクスは日本じゃあまり人気ないって、ブロガーのピート・ムーンさんが書いていましたよ」
生麦「そうかな? 僕の周りはみんな好きだけど」
雑色「もちろん私も大好物でございます。でも彼らが玄人ウケするバンドっていうのは確かですよね。実際にCDセールスもローリング・ストーンズやザ・フーには到底及びませんし」
生麦「他と比べて決定的な代表作がないから取っつきにくいのかな」
逸見「それですよ! 僕も何から聴けばいいのかサッパリわかりません!」
雑色「自信満々に言うなって! でも逸見ちゃんのようなビギナーにこそ、この〈Lola Vs.〉はオススメかも。彼らが60年代後半から熱心に取り組んでいたコンセプト・アルバムのひとつなんだけど、他の作品に比べてストーリー性が希薄なぶん、楽曲単位で聴いても違和感がないし、小難しくもないからね」
生麦「そうだね。当時のキンクスはしばらくシングル・ヒットとは無縁だったんだけど、本作からは久々に“Lola”と“Apeman”がチャートを賑わせたし、他の楽曲も粒揃いだよ!」
逸見「あ、“Lola”は僕でも知っていますよ! え~っと……(ネット検索中)、そうそう、レインコーツやマッドネスもカヴァーしているあのシンガロングな曲!」
生麦「〈キンキー・サウンド〉と呼ばれていた初期のナンバーは、パンクやハード・ロックの連中によく取り上げられているのに対し、この頃の曲は意外とニューウェイヴ系のアーティストに好かれているよね」
逸見「(スマホを見ながら)最近でもフォーマットが“Apeman”を演っています」
雑色「本人たちにそのつもりはなくても、中期以降のキンクスって常にズレているというか、英国らしい捻くれぶりが全面に滲み出ていますからね~。そのハズシの感覚がまさしくニューウェイヴ的!」
生麦「〈Lola Vs.〉にもアメリカーナっぽいフォーキーな曲が収録されているけど、全体的にはどう聴いても英国丸出しな感じだもんね」
雑色「そのアクの強さが、シングル・ヒットを飛ばしてもアルバム・セールスにイマイチ結びつかなかった原因!?」
逸見「(引き続きスマホを見ながら)あっ! こ、これは大ニュースですよ! 来年キンクスが再結成するみたいです!」
雑色「またまた~。どうせブロガーの妄想でしょ?」
逸見「いやいや、情報源はMojo誌です!」
生麦「うわわ、それはめでたい! すぐにお茶を煎れるから祝杯を挙げよう!」
雑色「まさにキンクスの曲名よろしく“Afternoon Tea”ですね、にゃはは」
引退した4年生とフレッシュな1年生が共通の話題で結束を高めるというのも良い話ですが、よく考えるとそれがロッ研の日常ですし、むしろ彼らにはそれしかないような気もしますね。
【つづく】