
マイペースな日々
90年代に入るとベックはジョン・ボン・ジョヴィからポール・ロジャース、ダフ・マッケイガン、ケイト・ブッシュ、さらにはたびたび組むことになるシールまで、より多彩になった客演とのバランスを取りながら、少年時代からの憧れを具体化したクリフ・ギャラップへのトリビュート作『Crazy Legs』(93年)などをマイペースに発表していく。エレクトロニクスとの融合を図った99年の『Who Else!』からはいつになくアルバム制作も活発化し、2001年の『You Had It Coming』、2003年の『Jeff』と、気ままに音の実験を展開。同作を最後にエピックを離れてからは、ある種のプレッシャーからも解放されたのか、パヴァロッティからトゥーツ&ザ・メイタルズ、ズッケロ、モリッシー、ハービー・ハンコック、トロンボーン・ショーティといった面々とジャンル不問で交流していく大御所然としたコラボが目立ってくるようになる。
アトコ移籍作となる『Emotion & Commotion』(2010年)ではジョス・ストーンやイメルダ・メイを迎え、続く『Loud Hailer』(2016年)では若手のボーンズUKとガッチリ組むなど、ヴォーカリストも交えた親しみやすい作品を発表していく様子は鬼気迫る往時のイメージを気負いなく脱ぎ捨てたかのようであった。その間の2013年にはブライアン・ウィルソンとのアルバム制作が公表されるも形にはならず、その後に取り組んでいたと思われるアルバムも断片的な形で来日記念シングル『Yosogai』やライヴ盤『Live+』に痕跡を残すのみとなった。
パンデミックで始まった2020年代もベックの録音は多く、ディオンやオジー・オズボーン、ヴァン・モリソン、イアン・ハンター、エリック・クラプトンらの作品でギターを聴くことはできる。そんななかでハリウッド・ヴァンパイアズ作品も通じて特に交流を深めていたのが俳優のジョニー・デップだ。2020年の4月にベックはデップとのコラボでジョン・レノン“Isolation”のカヴァーを公開し、そのままロックダウン前から手をつけていた二人でのアルバム制作を進めていった。そして2022年7月にはデップとのコラボ・アルバム『18』のリリースに漕ぎ着けるが、これがベックにとって最後のアルバムとなった。
溢れるクリエイティヴィティーと譲れない気質に任せて多くのミュージシャンと衝突を繰り返してきた若き日から、ギターとの対話そのものを表現として己の演奏を追求した日々、それらをくぐり抜けた最後のアルバムが、18歳の頃のマインドで盟友の歌唱に寄り添うカヴァー曲メインのソング・オリエンテッドな作品だというのも良い終幕のように思えてくる。あらゆるイメージを取り払って、いまこそ彼の残した作品にじっくり耳を傾けてみたい。
ジェフ・ベックが参加した作品を一部紹介。
左から、トライデンツの“Tiger In Your Tank”を収録したコンピ『Having A Rave-Up! The British R&B Sounds Of 1964』(Grapefruit)、ドノヴァンの69年作『Barabajagal』(Epic)、スティーヴィー・ワンダーの72年作『Talking Book』(Motown)、デヴィッド・ボウイとの73年のライヴ録音を含む2022年のサントラ『Moonage Daydream』(Parlophone)、スタンリー・クラークの75年作『Journey To Love』(Nemperor)、ナラダ・マイケル・ウォルデンの76年作『Garden Of Love Light』(Atco)
ジェフ・ベックが参加した80年代の作品を一部紹介。
左から、コージー・パウエルの81年作『Tilt』(Polydor)、ロッド・スチュワートの84年作『Camouflage』(Warner Bros.)、ティナ・ターナーの84年作『Private Dancer』(Capitol)、ダイアナ・ロスの84年作『Swept Away』(EMI)、ミック・ジャガーの86年作『She's The Boss』(Columbia)
ジェフ・ベックが参加した90年代の作品を一部紹介。
左から、ジョン・ボン・ジョヴィの90年作『Blaze Of Glory』(Mercury)、ポール・ロジャースの93年作『Muddy Water Blues』(Victory)、ケイト・ブッシュの93年作『The Red Shoes』(EMI)、シールの94年作『Seal』(Warner Bros.)、ジョン・マクラフリンの95年作『The Promise』(Verve)、ブライアン・メイの98年作『Another World』(Parlophone)
ジェフ・ベックが参加した2010年代の作品を一部紹介。
左から、ハービー・ハンコックの2011年作『The Imagine Project』(Sony Classical)、トロンボーン・ショーティの2011年作『For True』(Verve)、ベス・ハートの2016年作『Fire On The Floor』(Provogue)、イメルダ・メイの2017年作『Life. Love. Flesh. Blood』(Decca)、バディ・ガイの2018年作『The Blues Is Alive And Well』(RCA)、ハリウッド・ヴァンパイアズの2019年作『Rise』(Ear Music)