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2019年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/林 剛

BLINKY Heart Full Of Soul: The Motown Anthology Real Gone(2019)

創立60周年と言いつつモータウンの再発や発掘はわずかだったが、エドウィン・スターとの共演作で知られる歌姫のソロ曲を大量の未発表音源(29曲!)と共に収めたこの編集盤には本気を見た。既出曲を含む未発表ソロ・アルバムが可視化されたのも喜ばしい。楽曲には60年代後半から70年代前半にクロスオーヴァー化が進んだモータウンの洗練志向も反映されているが、ゴスペルのルーツを隠さないヴォーカルにプライドを感じられる。その歌唱は特にアシュフォード&シンプソンやフランク・ウィルソンのプロデュース曲で活きる。

 

THE 9TH CREATION A Step Ahead Past Due(2019)

75年作『Bubble Gum』で名高い西海岸のファンク・バンドが80~81年に録音するもお蔵入りしたアルバムに、レアな既発シングルやデモなどを加えた発掘&再発盤。70年代ファンク/ディスコの延長線上にあるアルバムは、没収されたマスターをメンバーのひとりが密かにカセットに録音していたことが音盤化に繋がったという逸話も込みで評価したい。82年のアーバンなスロウ“Mellow Music”、シンセ・サウンドが際立つブラコン~クワイエット・ストーム路線の曲を収録した86年の12インチEP『Love Crime』も快挙の復刻だ。

 

SIDIKU BUARI Disco Soccer Polydor/BBE(1977)

ガーナのシンガー/打楽器奏者がディスコ絶頂期に放ったカルトなアルバム。元アスリートらしくスポーツ・ダンスの提唱も目的としていて、ステレオタイプなアフロ感は抜きに、一連のサルソウル作品やシルヴァー・コンヴェンション路線の疾走ファンキー・ディスコ/ソウルで駆け抜ける。“African Hustle”も〈アフリカ〉ではなく〈ハッスル〉に重点が置かれている。ブレッカー・ブラザーズやサルソウル・オーケストラのパーカッショニストであるクラッシャー・ベネットも参加。ディスコが正当に評価されるいまこそ真価が伝わる一枚。

 

VARIOUS ARTISTS Greg Belson's Divine Disco Volume 2: Obscure Gospel Disco 1979 To 1987 Cultures Of Soul(2019)

2016年の本企画で私的ベスト1に選んだゴスペル・ディスコ・コンピの続編。79~87年と音が若干新しくなった今作は表題通りレア度を増し、ポスト・ディスコ期らしいエレクトロニックな音も混在している。LA、アトランタ、メンフィス、フェニックスなど米国ローカルの曲に加えて英国勢も登場。サウス・ロンドンのパラダイスによる“Keep The Fire”のような、マイケル・ジャクソン『Off The Wall』以降のブギー感覚を持ったパーカッシヴなダンサーも目立つ。軽快な音に乗る、ゴスペル然とした圧の強い歌声がたまらない。

 

RASPUTIN'S STASH Stash Family Groove(2019)

2016年にはアセンズ・オブ・ザ・ノース(AOTN)から幻のアルバムが発掘されていたシカゴのファンク・バンドだが、またまた未発表アルバムが登場。76年に地元で録音した作品ながら、サウンドはブラック・ロック風でもあったコティリオン盤(71年)に通じるグリッティーな質感にスピリチュアルなムードが加わった印象だ。“Paradise”や“Sex Freak”といったダンサブルな曲もあるが全体を通して密室ファンク感が強く、ややディスコに近づいたAOTN盤との違いを楽しめた。“Children Of The Lord”はグルーヴィー・ファンクの傑作。

 

VARIOUS ARTISTS Jazz Fest! The New Orleans Jazz & Heritage Festival Smithsonian Folkways(2019)

世界的に有名なニューオーリンズのジャズ・フェス、その50周年を記念したCD5枚組+豪華ブックは、ディキシー・カップスからビッグ・フリーダまで新旧アーティストの貴重なライヴ音源を故人のパフォーマンスも含めて収録したメモリアルな逸品だった。〈ジャズ〉〈R&B〉〈ブラスバンドとゴスペル〉〈ザディコ/ケイジャン〉〈ロックとヒップホップ〉とざっくり区分されたCDには、現地気分を盛り立てるSEも挿入。ハリケーン・カトリーナ翌年の一体感、2019年に他界したドクター・ジョンのメドレーなど、感涙ポイントも多い。

 

MARVIN GAYE You’re The Man Motown/ユニバーサル(2019)

72年に発表する予定だったが、制作が頓挫。その幻を形にすべく、当時のシングルや未発表音源で組み立てられた仮想アルバムは、サラーム・レミらによるリミックスを除けばこれまで小出しに公開されてきた曲ばかりで目新しさには欠けるも、楽曲のクォリティーは文句なしのトップ。マイゼル兄弟も絡んだ社会派ソング、ウィリー・ハッチの60sノーザン感覚が活きたラヴソングがそれぞれコンセプト性を持って並べられ、アルバムとして新たな命が吹き込まれた。単体で復刻された故郷ワシントンDCでの凱旋ライヴ盤『What's Going On Live』も同位としたい。

 

VARIOUS ARTISTS Lamp Records - It Glowed Like The Sun: The Story Of Naptown's Motown 1969-1972 Now-Again(2019)

ナウ・アゲインがインディアナポリスのソウル・レーベルの全貌を明らかにした編集盤(CD4枚組)。街の愛称から〈ナップタウンのモータウン〉と称されるランプは69~72年までと短命だったが、そのぶんレアな良曲が凝縮されている。うち2枚は、それぞれヴォーカル・グループ、ファンク・バンドを中心にコンパイルされ、前者には珠玉のバラードが並ぶ。Disc-4はゴスペル・グループのアルバムだが、目玉はヴァンガーズの編集盤となるDisc-3。モダンからスウィートまで、テナーやバリトンのせめぎ合いを聴かせる必殺の内容だ。

 

C.J. & CO. Ain't It Amazing(The Unreleased Westbound Masters) Westbound/Solid(2019)

創立50周年を迎え、記念コンピも登場したウェストバウンド。デトロイトの名門が誇る男女混声グループの本作は、79年に発表予定だった幻のサード・アルバムから未公開曲のみを収録し、代表曲“Devil's Gun”のオリジナル・ミックスも追加した歴史的にも価値のある一枚に。デニス・コフィとマイク・セオドアがサルソウルの向こうを張って作り上げたディスコ・ファンクは、表題となったダンサーからゴージャス極まりない。シーケンス・ベースラインが脈打つミュンヘン・サウンド風の“Get Lucky”にはダフト・パンクも降参か?

 

ISAAC HAYES Shaft: Deluxe Edition Enterprise/Craft(1971)

何度も復刻されているブラック・ムーヴィーのサントラだが、本編にフィルム・スコア(22曲)を加えた2枚組セットとしてリイシューされるのは今回が初めてとなる。演奏陣は共にバーケイズやムーヴメントが中心ながら、スコア版はMGMスタジオで録音され、ミックスも劇場仕様。映画のストーリー順に曲が並んでいるのもリアルで、サントラには未収録のナンバーも入っている。劇中でシャフトが捜査に出向いたアパートからかすかに流れてくる女性リードのアップ・チューン“I Can't Get Over Losin' You”を聴けるのが収穫。