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2020年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/林 剛

VARIOUS ARTISTS 『Stone Crush: Memphis Modern Soul 1977-1987』 Light In The Attic(2020)

アフター・スタックス時代の知られざるメンフィス・ソウル/ファンク曲を集めた本コンピは画期的だった。ローカル産らしいセカンドクラス感もあるとはいえ、メジャーからこぼれ落ちた才能たちがスタックスやハイの残党を味方につけて地元スタジオにて録音した楽曲はモダン・ソウル~ブギー・ファンクの良品揃いで、現在の空気に馴染む。フランキー・アレクサンダーのエレガントなミディアム“No Seat Dancin'”をベン・コーリーが手掛けているが、バーケイズに影響を受けたと思しき曲も多数。肉厚で詳細なブックレットも労作だ。

 

CAPTAIN SKY 『Pop Goes The Captain』 AVI/Past Due(1979)

シカゴのベーシスト/シンガーがAVIから出した2枚のアルバムは、ブギー・ブーム以降に復刻されたファンク盤の中でも屈指の作品だろう。ジャケットから滲み出るPファンク愛も好感だが、洗練されたディスコ・ダンサーで開幕するこの2作目は、ダニー・リークら地元の腕利きを集め、管弦の響きも活かして優雅なウィンディ・シティ・ソウルを繰り広げた快作。ケンドリック・ラマーの初期曲にて引用されたメロウ・ソウル“Cream & Sugar”などでは、後にフィリーのWMOT一派と絡む彼らしいモダンなセンスが光る。

 

VARIOUS ARTISTS 『The Gospel Truth -Complete Singles Collection』 Craft(2020)

スタックス音源の復刻がクラフトによって新たな視点で進められているが、傘下のゴスペル専門レーベル、ゴスペル・トゥルースの全シングルA/B面を品番順に並べたこの作品集は待望の企画だった。モータウンやフィリー・ソウルの曲をカヴァーするなどして世俗に接近したランス・アレン・グループを看板アクトとしただけに、図らずも10月に他界したアレンの追悼作となったコンピでもある。ジョシー・ジョー・アームステッドや21stセンチュリー、ジャッキー・ヴァーデルなど、単純に70年代ソウルとしても強力な曲が揃う。

 

RIVAGE 『Sittin' On It』 Tempus/Athens Of North(1981)

レア・グルーヴ方面で人気を集めるマイティ・ライダーズのライオネル・ハリソンを擁した4人組で、マイティ~の78年作『Help Us Spread The Message』と同じくサミュエル・ソロモンJrが制作し、マイアミで録音されたとくれば見逃すわけにはいかない。チョコレイトクレイを思わせるブリージンなマイアミ・ソウル“Strung Out On Your Love”に代表される洒脱なモダン・ソウル/ファンクの連続で、歌や演奏のヘタウマ感も愛おしい。81年の原盤は激レア。そこに入っていた半裸写真のポスターが本復刻盤のジャケに使用された。

 

RON HENDERSON & CHOICE OF COLOUR 『Soul Junction』 Chelsea/Pヴァイン(1976)

オリジナルLPは高嶺の花。そのチェルシー原盤作(76年)が、80年代に出された増補新装盤の収録曲をもとに、74年のシングルを加えてCD復刻された。シャーロットを拠点としたロン・ヘンダーソンがニューオーリンズ勢と連携して作り上げたアルバムで、ドゥワップ、スウィート・ソウル、NOLAクラシックを混在させながらモダンなアプローチで迫る。裏声を交えたフィリー・ソウル風の“I'll Be Around”は、人種間の分断がない世界を願うメッセージ・ソング。偶然とはいえ、BLMが叫ばれる現代に相応しい復刻でもあった。

 

VARIOUS ARTISTS 『Ready Or Not - Thom Bell's Philly Soul Arrangements & Productions 1965-1978』 Kent/Solid(2020)

フィリー・ソウルの立役者による14年間の仕事から代表曲を集めた本盤は、バート・バカラックにも喩えられる小粋なポップセンスが光る名曲揃いで、トム・ベルがスウィート・ソウルのムードを作り上げた名匠のひとりであることを改めて実感させてくれた。コートシップのモータウン音源もフォロー。そのエレガントな作法は、レスリー・ゴーア、コニー・スティーヴンス、ダスティ・スプリングフィールド、ローラ・ニーロといった白人女性たちと相性が良かったことも知らしめる。監修はセイント・エティエンヌのボブ・スタンリー。

 

FAMILY OF SWEDE 『Family Album』 Cordial(2020)

このオークランドのヴォーカル&インスト・グループは今回初めて耳にした。お蔵入りとなった76年発表予定のアルバムを軸に、80年代録音の曲も交えて組んだ編集盤。既発シングルA/B面の2曲が象徴するようにグルーヴィーなファンクとスウィートなバラードを聴かせるバンドで、元祖アシッド・ジャズ的な曲もあるが、テンプテーションズ“The Girl's Alright With Me”のカヴァーを披露する歌心がキモだ。12分近くの長尺版も収録された“Set You Free”などのモダンで落ち着いたスロウに彼らの本質が現れている気がする。

 

THE CLARK SISTERS,ELBERNITA "TWINKIE" CLARK 『You Brought The Sunshine: The Sound Of Gospel Recordings 1976-1981』 Westbound/Ace(2020)

伝記TV映画の公開で改めて注目が集まったデトロイトのゴスペル姉妹。ディーン・ラドランドの監修で、トゥインキー・クラークのソロ曲を含むサウンド・オブ・ゴスペル時代(76~81年)の編集盤も再評価に一役買った。ガラージ・クラシックとしても有名な“You Brought The Sunshine(Into My Life)”を筆頭に、ディスコなどに接近して世俗でも人気を得た彼女たちの開かれたゴスペルは、クリスチャンであるか否かは関係なく広く親しまれて然るべきものだ。久々の新作『The Return』でも爆発的な歌声とスピリットは変わらず。

 

VARIOUS ARTISTS 『A Cellarful Of Motown Vol. 5』 Caroline(2020)

日本公開された映画「メイキング・オブ・モータウン」にてベリー・ゴーディJrとスモーキー・ロビンソンが社内のシステムを詳らかにしていたが、〈品質管理会議〉でボツにされたであろう曲を含む黄金期モータウンの未発表/レア音源集、その第5弾が前作から約10年ぶりに到着。CD化およびデジタル配信済みの曲もあるとはいえ、ファンク・ブラザーズの未発表インストは録音予定だった歌い手の姿を想像すると胸が熱くなるし、ブライアン・ホーランドのデモなどに初めて接する喜びは大きい。モータウンの音源は本当に底なしだ。

 

ELI'S SECOND COMING 『Eli's Second Coming』 Silver Blue/Solid(1977)

秘境レヴェルに突入したTKの復刻シリーズ。故レン・バリー(2020年に他界)との仕事も多かったMFSBのギタリスト、ボビー・イーライによるディスコ・プロジェクト唯一のシルヴァー・ブルー原盤作が世界初CD化となったのも嬉しい。第2期MFSBによる演奏のもと、スウィートハーツ・オブ・シグマの女声コーラスを従えて華やかに展開するフィリー・ディスコは一連のサルソウル作品に通じる昂揚感があり、快楽への扉を開いてくれる。イーライがメイジャー・ハリスに提供した“Love Won't Let Me Wait”のカヴァーを含む。