現役のレジェンドが帰ってきた! 70年代から時代の動きに応じて音楽性を広げ、世俗のソウル/R&Bシーンにも絶大な影響を及ぼし続けているUSゴスペルの最高峰、クラーク・シスターズをいまこそ聴いてみよう!
本籍と現住所は教会。だが、近所からはR&Bやヒップホップ、ジャズが聴こえてくる。コンテンポラリー・ゴスペル、アーバン・ゴスペルと呼ばれる音楽を喩えるとそうなるのかもしれない。聖典に根ざした音楽でありながら世俗のサウンドや歌唱に影響を受け、R&Bの世界に歩み寄るなどして教会離れの若者にもアピールする。カーク・フランクリンはその象徴的な存在だが、故アレサ・フランクリンの家族やワイナンズ一族と同じデトロイトのゴスペル・ファミリーとして、あるいはステイプル・シンガーズからメアリー・メアリーまでの女声を中心とするソウル/R&B寄りのゴスペル・アクトとして、米国で絶大な支持を得るのがクラーク・シスターズだ。
メンバーは、ジャッキー(48年生まれ)、デニース(53年生まれ)、トゥインキーことエルバーニタ(54年生まれ)、ドリンダ(57年生まれ)、カレン(60年生まれ)の5人。母親のマティ・モス・クラークは、公民権運動の舞台となったアラバマ州セルマ出身のピアニストで、最初の夫との子がジャッキー、デトロイト移住後に再婚相手の牧師エルバート・クラークとの間にもうけたのが残る4人となる。
ミニスターに就任して教会の発展に尽力していたマティは幼い娘たちにも歌を指導し、自身もレコード・デビュー。早くから音楽的な才能を発揮していたトゥインキーを鍵盤奏者に起用して成功を収めるが、出世欲が強かった夫エルバートの嫉妬を買い、それが原因で73年に離婚。そのタイミングで父の姓を受け継ぎ、姉妹5人で初録音をしたところからクラーク・シスターズの歴史はスタートしている。73~74年に彼女たちのアルバムを2枚出したビレッセは、マティの弟にあたる叔父のビル・モスが主宰したレーベル。そのビルは60年代からセレスティアルズを率いてゴスペル界で活躍していたスターで、つまりクラーク姉妹はサラブレッドだったのだ。
世俗音楽界との接近は、年頃の姉妹がR&Bやジャズを母に隠れて聴きはじめたことがきっかけだったとされる。もっともマティも娘たちの好みには寛容だったようで、そんな世俗趣味は70年代中期から籍を置いたサウンド・オブ・ゴスペル時代の作品に反映された。同レーベルの配給がウェストバウンドだったこともソウルやファンク、ディスコへの傾倒を後押ししたのだろう。未知の領域に踏み込む冒険心と姉妹ならではの息の合ったハーモニーはポインター・シスターズにも通じていた。例えば、81年に登場した“You Brought The Sunshine(Into My Life)”はスティーヴィー・ワンダーの“Master Blaster(Jammin')”を意識したレゲエ・マナー。ゴスペルのラジオ局からは〈レゲエ風だから〉という理由だけで締め出しを食らったようだが、当時NYのWBLS局で番組を持っていたフランキー・クロッカーの耳に留まり、それがラリー・レヴァンにも届いて最終的にはパラダイス・ガラージの古典となったように、ゴスペル=教会で聴く音楽という常識を覆した点でも同曲の意義は大きい。
母マティとのライヴ実況盤『Is My Living In Vain』(80年)では名義がダイナミック・クラーク・シスターズとされていたように、力強く伸びやかでエレガントな歌声が彼女たち最大の武器であったことは言うまでもない。ハモンドB3などの鍵盤演奏やソングライティングで才能を発揮し、ペプシのCMジングルなども手掛けたトゥインキーは、サウンド・オブ・ゴスペル時代にいち早くソロ・アルバムを発表。エモーショナルな歌い込みでグループでも存在感を示したが、アルト/メゾ・ソプラノ担当でスキャットなどを自在にこなすドリンダも美声と美貌でグループの顔となった。
そして、デニースが脱退した80年代中期以降から頭角を現しはじめたのがソプラノ・ヴォイスの末娘カレンで、母マティが他界した94年、トゥインキーを除くトリオ体制で発表した『Miracle』ではカレンの若々しさがニュー・ジャック・スウィング以降のフレッシュな音と良い相性を見せていく。現在ソロとしてもっとも人気を集めているのもカレンで、娘のキエラ(キキ)もシンガーとして、息子のJ・ドリュー(JDS)はドラマー/プロデューサーとして活躍。血縁では、ビル・モスの息子、つまりクラーク姉妹の従兄弟にあたるJ・モスもアーバン・ゴスペルを牽引する奇才として知られている。
この4月に米ライフタイムにて放送される伝記TV映画「The Clark Sisters: The First Ladies Of Gospel」では、そんな姉妹たちの物語が生々しく描かれているという。エグゼクティヴ・プロデューサーにクイーン・ラティファのほか、姉妹との共演曲を出しているメアリーJ・ブライジやミッシー・エリオットが名を連ねているのも、世俗の女性アーティストに与えた影響の大きさを物語る。
THE CLARK SISTERS The Return Motown Gospel(2020)
そのメアリーはジャッキーの新曲“Feel Good”にもフィーチャーされていたが、映画の公開に合わせてか、姉妹4人でのクラーク・シスターズも新作『The Return』をモータウン・ゴスペルの配給で発表。ライヴ盤から13年ぶり、クリスマス盤を除くスタジオ録音アルバムとしては『Miracle』以来26年ぶり、表題通りの復帰作だ。華やかでポジティヴなパフォーマンスは相変わらずで、J・ドリューが手掛けた先行曲“Victory”におけるスケールの大きい歌唱は、まさにダイナミック。そんな風格のあるヴォーカルを、ロドニー・ジャーキンズ、ジャーメイン・デュプリ、ウォーリン・キャンベル、カート・カーらも制作陣として支えている。“His Love”には『Snoop Dogg Presents Bible Of Love』(2018年)に姉妹が参加したことへの返礼なのか、スヌープ・ドッグが客演。昨年はカニエ・ウェストのサンデー・サーヴィスにて80年の“Ha-Ya(Eternal Life)”が引用されて賛否を巻き起こしたが、それほどクラーク・シスターズの曲はブラック・コミュニティーの定番なのだろう。日曜の朝を厳かかつ華やかに彩る歌声は、いまも太陽のように輝き続けている。 *林 剛
クラーク・シスターズの客演作品を一部紹介。
カレンが参加したフェイス・エヴァンスの2014年作『Incomparable』(BMG)