生演奏とデジタル編集が並列化した時代のロックの可能性
20分を超える大作“Djed”で幕を開ける『Millions Now Living Will Never Die』は、生演奏をベースにしながらサウンドは緻密にエディットされて作り込まれている。クラウトロックや電子音楽からの影響も感じさせる本作は、演奏と同じくらいスタジオワークが果たす役割が大きかった。90年代中期は、コンピュータによる音楽制作ソフト、Pro Toolsが一般的に使われるようになるなど、レコーディング機材がデジタルに変化していった時期。そんな変化も曲作りに反映させて、シカゴ音響派のバンドはロックの新しい可能性を探ろうとした。
同じく1996年には、ガスター・デル・ソルも新作『Upgrade & Afterlife』を発表した。ガスター・デル・ソルには1994年にジム・オルークが加入。実験音楽やノイズに造詣が深いオルークが加わったことで、ガスター・デル・ソルのサウンドはより先鋭化していった。アメリカの伝説的なギタリスト、ジョン・フェイヒィのカバー曲を収録した『Upgrade & Afterlife』は、アメリカーナの要素も取り入れた独自のサウンドを確立して彼らの代表作となった。
さらに1996年には、ディレクションズがファーストアルバム『Directions In Music』を発表。トータスより生音を前面に押し出したダイナミックな演奏を聴かせた。前年の1995年には、シー・アンド・ケイクが『Nassau』『The Biz』と2枚のアルバムを発表して知名度を高めていたこともあり、トータスをめぐるシカゴのバンドは日本で〈シカゴ音響派〉と呼ばれることになる。同じく1996年にマッケンタイアはロンドンで活動するステレオラブの新作『Emperor Tomato Ketchup』に招かれていて、シカゴ音響派が生み出すサウンドは海外からも注目を集めていた。
ジャズなど様々な領域に影響を与え続けるシカゴ音響派
その後、トータスのメンバーは、アイソトープ217、ブロークバック、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ、プルマンなど様々なバンドやユニットを結成。とりわけジョン・マッケンタイアやジム・オルークは、プレイヤーやプロデューサーとして様々なバンドやアーティストの作品に参加した。90年代後半にはオルタナロックに続く新たなロックの潮流として、実験的なロック=〈ポストロック〉の波が広がっていったが、シカゴ音響派はポストロックの初期のフォーマットを作ったと言えるだろう。
また、シカゴ音響派はジャズとロックを繋げたという点でも重要だ。シカゴ音響派の新しい角度からのジャズへのアプローチ、ジャンルを超えた音楽性、そして、親密なコミュニティは、フライング・ロータスやサンダーキャット、カマシ・ワシントンなどがひしめき合うアメリカ西海岸のジャズシーンに通じるものもある。ディレクションズが1997年に発表した12インチ“Echoes”が2021年に再発された時には、キーラン・ヘブデンが〈フォー・テットの青写真になった作品〉とコメント。ジャイルズ・ピーターソンは〈この作品から多くのアイデアを得た〉とコメントを寄せていたが、シカゴ音響派の作品はジャンルを超えて今も様々なアーティストに影響を与え続けている。




