●北野 創
この夏は「リスアニ! Key音楽大全」の編集仕事もあってゲームブランド・Key関連の音楽を浴びるように聴いていたのですが、それら2000年代美少女ゲーム音楽が纏うノスタルジーと地続きでありながら、どうしようもなく2020年代的なムードが横溢する本作と出会い、やっぱり音楽って楽しいなあと心から思った次第。学生時代にラジオで流れた“夜、暗殺者の夜”のエアチェック音源を繰り返し聴きながら焦がれていた裸のラリーズの正規リイシューも私的大事件でした!
●鬼頭隆生

店頭ではジャズのコーナーをよく見ますが、新たな潮流を感じさせる新作群に加え、入手困難になっていた旧作や希少盤のリイシューも充実という近年の傾向が続いている印象です。なかでもこの『Loopholes』は、スタンダード曲やブラジル音楽を主なスタイルとしていたアンドレア・モティスがヒップホップやネオ・ソウル、クンビアなどに接近した一作で、カタルーニャ語も含む歌唱のエキゾティックな華やぎが、他にはない魅力でした。
●桑原シロー

70年代のトッド・ラングレン・サウンドにオマージュを捧げた“These Days”がまず極上。秘匿感満点なアシッド・フォークやハイ・ラマズ的な淡い酩酊感を漂わせたソフト・サイケも上出来だし、〈現代ソフト・ロック奇跡の傑作〉という惹句もまんざら大げさではない。UK生まれの才女によるこの初作、マニアックだけど自己完結的なムードはなく、どの曲も極めてスマイリーかつフレンドリー。こういうベッドルーム・ポップと出会いたかったのだ。
●郡司和歌

まさかソロ作が出るとは! タワーレコードのバイヤー時代には、渋谷店の一角に伝説の〈松永コーナー〉を作り、音楽好きを虜にしてきた松永耕一ことCOMPUMA初の本人名義作は、チルなエレクトロニクスと深遠なダブ処理によるめくるめくサウンドスケープに、彼の美学と狂気を見た2022年いちばんの圧巻作でした。映像と音をシンクロさせ、観客を痺れさせたリリースイベントも鳥肌モノ……とその深い音楽への探求心と愛、ユーモアにはただただ感服するばかり。多大なるリスペクトを!
●近藤真弥

2021年11月にデビューした7人組のサード・ミニ・アルバム。他のK-Popグループと比べて、複雑かつ曖昧な世界観を繰り広げるところがおもしろいと思います。本作でも、イギリスの作家ロアルド・ダールによる児童文学作品「マチルダ」をモチーフとした曲があるなど、興味深い試みが多い。ハード・ロックをモダンなプロダクションで鳴らすといった音の魅力もグッド。K-Popにおいてオルタナティヴな感性を見せる彼女たちの将来が楽しみになる作品です。
●澤田大輔

BTSらが所属するHYBE系列から現れた5人組によるこの第1作が2022年最大の衝撃でした。登場と共に公開した“Attention”では90年代回帰的なサウンド&ルックを志向しながら、その後の楽曲群ではY2K~2010年代の意匠も織り込んだ世界観を絶妙に抑制を効かせたクールなプロダクションで提示。それらをまとめた本作は〈好みの曲しか入ってないポップ盤〉というだけで素晴らしい! とはいえまだ4曲のみなので、次シーズンにも最大限に期待しております。
●田山雄士
コロナ禍3年目。時が経つごとに分断は進んでいるようにも感じますし、サッカーのワールドカップに伴う熱狂を見ると私たちはまだまだ団結できるようにも感じます。こんなとき、希望を見い出す手助けをしてくれるのが音楽だったりするわけですが、BRIDEARの新作はまさに、コロナ危機に立ち向かうパワーに満ちた一枚。ロック好きにもめっちゃ聴きやすい超キャッチーなメタルなので、ぜひチェックしてみてください。〈サマソニ〉&ヨーロッパツアーを大成功させるなど、強気な姿勢を貫く彼女たちに今後も注目です。
●土田真弓

2022年を振り返ると、観た映画のサントラ/テーマソングを続けて楽しむ機会が多かった気がします。「ボヘミアン・ラプソディ」と「平家物語」を重ねたような「犬王」は、伝統楽器を使用したグラマラス&ブルージーな劇中歌群が素晴らしく、伝奇 × 音楽映画としての臨場感がまるでライヴ盤の如くありありと。主題歌なら米津玄師“M八七”とROTH BART BARON“N e w M o r n i n g”が2強。映画本編に対する各々の解釈、メッセージにグッときました。