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●桑原シロー

LOS LOBOS 『Native Sons』 New West(2021)

〈LAへのラヴレター〉と銘打たれたこのカヴァー作。ジー・ミッドナイターズ、ラロ・ゲレロ、ビーチ・ボーイズなどの青春時代が甦る忘れじの名曲に取り組んだところ、実にカラフルでめっぽう奥行きを感じさせるアメリカン・グラフィティが完成してしまった。かつてのイーストLAの街角や路地裏に流れていたであろう独特な空気を満喫させる濃密な果実。遠くへ出かけることが許されなかった2021年、どうにも手離せなかった。

 

●郡司和歌

D.A.N. 『NO MOON』 SSWB/BAYON PRODUCTION(2021)

閉塞的な日々の中、ようやく明るい兆しが見えてきた頃に届いたD.A.N.の本作は、輝かしい彼らの未来を指し示す傑作だった。これまでよりもテクノやヒップホップなどクラブ方面へアプローチしつつ、リズム隊は強靭さを増し、色香ある歌声はしなやかに妖艶に姿を変え、よりシネマティックに深化したサウンドは完全にネクスト・レヴェルに到達した感が。静かな熱量が燃え盛る今作を携え、彼らが世界を熱狂させる日はきっと近い。

 

●近藤真弥

IU 『LILAC: IU Vol. 5』 EDAM(2021)

音楽だけでなくさまざまな韓国のポップ・カルチャーを楽しんだなかで、世界的に見ても群を抜く作品だと感じたのが本作です。夭折した親友のソルリに向けた歌にも聴こえる“Celebrity”を筆頭に、痛みを抱えながら前に進もうとする姿がちらつく曲群からは、多くのものを背負ってきたIUの人生が窺える。そのような物語性を安易に消費しがちなエンタメ業界の罪深さも含め、聴きながらいろんなことを考えさせられました。

 

●澤田大輔

葛谷葉子 『MIDNIGHT DRIVIN' -KUZUYA YOKO MUSIC GREETINGS 1999~2021-』 ALDELIGHT(2021)

近年は楽曲提供の仕事で活躍していた葛谷葉子が自身の音楽活動を再開。新曲2曲を含むベスト盤をリリースしました。R&Bをベースに広範なアーバン・ミュージックを消化した洗練された楽曲の数々には、2021年にジャストに享受できる響きが。シティー・ポップを掘り起こす文脈において、こうした90年代後半から00年代前半の作品が射程に入ってきたことが興味深いところです。この流れを受けて、2022年は佐藤聖子のベスト盤(アルバム未収録シングルを含めて!)のリリースあたりを所望します。

 

●田山雄士

SULLIVAN's FUN CLUB 『Panta rhei』 ATAMANICRUZE/SPACE SHOWER(2021)

コロナ禍2年目。活動を止めてしまったアーティストも多かったけれど、逆境としっかり向き合って乗り越えた人たちが鳴らす音楽はやっぱり真に迫るものがありました。特にロック・バンドは力を問われる年だったのかなと。そんななか、ガッツとパンク精神あふれる楽曲で心を震わせてくれたのがSULLIVAN’s FUN CLUB。ツアー中止やメンバー脱退で相当苦しんだのに、こんなに素晴らしい新作を生み出すなんて……! “DESTRUCTION”の〈どん底ぶって泣けるほど 何かを愛せたか?〉には本当にハッとさせられた。

 

●土田真弓

peanut butters 『peanut butters』 highlight/UKプロジェクト(2021)

またしても大半を自宅で過ごしたこの1年、いつ聴いても胸が膨らむようなときめきをもたらしてくれたのがpeanut bettersのファースト・アルバム。ローファイなサウンドデザインとキュートな女子ヴォーカルでコーティングしたサーフ・ロック/パワー・ポップ作品ですが、徹頭徹尾キャッチーながら、絶妙に力の抜けた佇まいが最高で。大ショックだったリチャード・H・カークの訃報など、気分が沈んだときの処方箋として手に取ることも多かったです。

 

●野村有正

RYUHEI THE MAN 『NEXT MESSAGE FROM JAPAN 2』 AT HOME SOUND(2021)

時代や情勢の一切を感じさせない、不動の図太いグルーヴを聴かせてくれた〈漢の中の漢〉のラスト・メッセージを挙げておきたい。7インチ・ヴァイナルをメインに展開していくレーベルの姿勢や、そのオーナーみずからがDJとしてプロモーターを兼ねるというのは理想的だったし、氏の携わる楽曲を本当に楽しみにしていただけに残念でならない。人は皆いずれ死ぬが、遺された音楽は決して死なない。改めてご冥福をお祈りいたします。

 

●長澤香奈

odol 『はためき』 UKプロジェクト(2021)

緊急事態が日常化し、エンタメはおろか、何もかもが先の見えない日々を過ごしていた頃に再生していた作品。“小さなことをひとつ”の流麗なピアノのイントロが始まると、暗く淀んだ景色が色づいて見えてくるし、無理に進まなくてもいいから、顔を上げようと思える。柔らかなサウンドと優しい歌声が心に寄り添ってくれて、暗い毎日に彩りを与えてくれた一枚です。2021年は新たなことより、現在や過去と向き合うことの多い一年でした。